東京一極集中の経済学

金本良嗣

要約

 東京への一極集中が,そこでの様々な混雑現象と異常なまでに高い地価をもたらしていることは周知の事実である.都心から60キロメートル以内という狭い範囲内にほぼ3千万人の人口が集中しているということを考えると,東京圏の住民に快適な住宅とゆとりある生活を提供することがいかに困難な課題であるかということがわかるできるであろう.スシ詰め電車での長時間通勤などの多大な負担を住民に負わせてはいるが,東京が都市としての機能を大きな混乱なく果たしていることはほとんど奇跡的でさえある.

 土地税制,借地借家制度,都市計画,社会資本整備システムの改善などによって,遊休地や低度利用地が有効に活用されるようになれば,首都圏の住宅事情が大きく改善されることは間違いない.しかし,そのことが東京圏への人口集中をさらに加速するであろうことも間違いなく,東京圏の人口が4千万人に達する事態も考えられる.また,たとえ住宅事情が改善されたとしても,週休2日制の浸透にともなう余暇活動の活発化を考えると,これだけの人口に充実した生活を保証することはほぼ不可能であろう.例えば,都市生活に疲れた人々が自然に親しもうと思っても,これだけの人口が週末に繰り出せば,交通渋滞と自然破壊は目に見えている.

 ここで,もし東京圏の人口を3千万人から2千万人に減らすことができれば,それだけで住民の生活に大きな余裕が出てくることは明かである.しかし,その場合の問題は,東京での集積の経済が失われることによって,住民の所得が減少し,実質生活水準がかえって下がることにならないかという点である.本書の坂下論文と小川論文はこのような問題を考える上で重要となるいくつかの論点を提供している.坂下論文は都市での生産活動に対するファースト・ベストとセカンド・ベストの混雑税を検討しており,小川論文は社会的共通資本を考慮に入れた都市間均衡を分析している.以下では,これらの論文よりもはるかに単純化したモデルを用いて,東京一極集中問題のエッセンスは何であるのかを考えてみたい.

目次

1.はじめに

2.東京 vs. その他の地域

3.最適都市数

4.一極集中と二極分散

5.おわりに