住宅に対する補助制度

金本良嗣

東京大学経済学部

 

要約

 公共部門は,住宅及びその関連分野に対して,様々な形で財政支出を行っている.たとえば,公共住宅の供給や住宅金融公庫の低利融資などに政府補助が行われているし,住宅関連の公共施設整備にも補助が行われている.また,所得税,相続税,固定資産税,不動産取得税などにおける住宅優遇政策は直接的な財政支出ではないが,税収の減少をもたらすので政府による財政的な関与の一つであるといえる.

 この章では,住宅に対する政府の財政的関与の現状を展望し,それらがどういう役割を果たしているのか,国民の税負担に見合った社会的便益を生み出しているのか,改善の余地はあるのかといった問題を考える.

 まず,第2節では住宅に対する財政負担の現状を概観する.日本では公共支出,財政投融資,税制上の優遇措置の3つの形で住宅に対する財政的関与が行われているが,これらがどの程度の大きさになっているのかを見た上で,欧米諸国の現状と比較する.

 第3節では,公営住宅,住宅金融公庫による低利融資,住宅に対する税制上の優遇措置等の個別の住宅補助政策をとりあげ,それらの現状を簡単に解説する.

 第4節以降では,第2節と第3節で概観した日本の住宅補助政策を経済学的に分析することを試みる.住宅補助政策を正当化するには,広い意味での「市場の失敗」が発生していて,しかも政策的介入に伴って必然的に発生する「政府の失敗」が「市場の失敗」を上回らないことを示す必要がある.

 まず,第4節では,住宅政策における「政府の失敗」と「市場の失敗」としてどのようなものが考えられるかを提示する.

 「市場の失敗」の第一は公平性の問題である.第5節では,公営住宅,家賃補助,特定優良賃貸住宅供給促進制度,持家補助等を取り上げ,それらが公平性の見地からの住宅補助政策として適切であるかどうかを検討する.

 第6節では,資源配分の効率性の見地からの住宅補助政策を分析する.第一に,近隣外部性は土地利用の効率性に関わる「市場の失敗」の典型例であるが,これが住宅補助政策を正当化できるかどうかを考える.第二に,農地補助政策や借地借家法は,日本の住宅・土地市場に非効率性をもたらしている.これらの政策が変更できないとした場合の次善の政策としての役割を住宅補助政策が果たしていると考えることもできる.第6節の後半部分では,これらの次善の住宅補助政策を分析する.

 最後の7節では,残された研究課題をリスト・アップする.