第2章 交通規制政策の経済分析
要約

 第1章でも見たように,交通産業は非常に規制の多い産業である。また,公的規制という形の政府介入に加えて,様々な形の補助制度を用いた政府介入が行われている。交通について政府の関与が極めて大きいという現象は,日本においてのみならず,欧米諸国にも一般的に見られる傾向である。

 交通に関して政府の介入が多いのは,交通産業に市場の失敗が多いからというよりは,交通が一般市民にとって非常に身近なものであるために政治化し易いからである。例えば,整備新幹線の建設促進とか通勤電車の運賃値上げ反対などのスローガンは地域住民にとって分かりやすいものであるので,政治的な公約として取り上げられやすい。交通問題の政治化は,本来は市場が処理すべき経済問題に対して政治と行政が余計な介入を行うという弊害をもたらすことになる。

 交通分野において過剰な規制が存在することは世界共通の認識になっており,米国を始めとして規制緩和が行われてきている。ところが,わが国はその流れに大きく取り残されており,規制緩和が行われたのは,トラック運送業などの数少ない事例だけである。しかも,完全な自由化が行われた例はなく,トラック運送業においても事前届出制が採用されている。以下では,規制の根拠にさかのぼって交通産業の規制のあり方に関する経済学的な議論を整理する。

目次 

2.1 はじめに

2.2 規制の根拠−市場の失敗−

2.3 規制の失敗 2.4 地域独占と総括原価主義による規制 2.5 コンテスタビリティーの理論

2.6 公正報酬率規制

2.7 インセンティブ規制

2.8 競争的産業の規制 (1)ベルトラン・パラドックス
(2)クールノー・モデルにおける過剰参入定理
(3)製品差別化のもとでの過剰参入
情報の非対称性
外部性
規制の偏向
2.9 独占部門と競争部門とのインターフェイス

2.10 規模の経済性と投資資金の確保

2.11 安全規制と品質規制

参考文献