80年代後半の地価高騰を契機として次々に監視区域が指定され,事実上の土地取引規制が行われてきた.地価が下落に転じてから4〜5年が経過した最近になって,遅ればせながら指定の解除や緩和がなされようとしている.地価監視区域制度の効果は既にほぼ出尽くしたと考えられるので,この制度の功罪について再検討する好機であるが,現状ではそのためのデータが利用可能でないので実証的な分析は不可能である.本稿では,土地取引規制に関する経済学的な考え方を整理して,将来の実証的な分析に備えることとしたい.
不動産市場に対する公共政策は多種多様であり,土地取引規制はそのごく一部にすぎない.政府による不動産市場への介入は以下の3つのタイプに分類できる.第一は,政府による民間経済活動の規制である.市街化調整区域等の指定による開発規制,第一種住宅専用地域等による用途規制,容積率規制などの形態規制がその主体であるが,土地取引規制も公的規制の一つである.また,借地借家法による契約自由の制限も政府による規制の一つであると見ることができる.第二に,政府は,公園,道路,上下水道,教育などの数多くの公共サービスを提供している.また,往々にして政府は(住宅都市整備公団等の公営企業を通じて)住宅供給,都市再開発,ニュータウンの建設等の事業を行っている.これらは政府による財・サービスの直接的な供給と考えることができる.第三に,政府は民間主体に対する様々な補助金や税金を通しても民間経済活動に影響を与えている.不動産市場に特に大きな影響を与えているのは,公共交通や都市開発に対する補助制度や固定資産税,譲渡所得税,都市計画税などの土地にかかわる税制である.
土地取引規制は,これらの政策体系の一部として機能していることに留意する必要がある.また,政策体系全体を考えれば,土地取引規制よりは他の政策手段を用いた方が望ましい可能性も存在する.例えば,土地税制の改革によって土地の有効利用が進むと,地価が下がり,土地取引規制は不要になるばかりでなく,弊害の方が大きいかもしれない.