戦後50年を経過した今日において、これまでの行政活動と民間活動の特徴及びその背景となる社会・経済情勢を振り返ってみたい。
1970年代半ばまでのキャッチ・アップ過程においては、目指すべき方向についての不
確実性が相対的に小さかったことから、我が国は、先発国たる欧米の実情を参考にすることで将来の見通しを得て、目標に向けて努力することができた。
こうしたことを背景にしたこれまでの行政活動と民間活動の特徴を挙げると、以下のとおりである。
生産者・供給者重視_
経済の高度成長を目標として、少ない資源を効率的に活用するため、行政は、規制、助成措置等の手段を用いて、重要産業、リーディング産業の育成に重点的に取り組んできた。この結果、産業別の縦割り型行政機構など生産者・供給者重視の体制が形成され、そのことが、特定の既得権益の保護につながったとの指摘もある。
他方、国民も、企業社会の一員として、消費者としての意識より企業従業員としての意識を強く持っていたと思われる。このため行政は、生産者・供給者重視の施策を容易に実施することができた。
行政による利害調整・政策誘導(コーディネーション)
これまで行政は、民間が最大限の力を発揮できるようにすることを基本的な目的として掲げながら、実際の運営に当たっては、しばしば、民間の活動を行政が望ましいと考える方向に向かわせるために、事前の規制、税制などの優遇措置、情報提供や業界団体の結成などの手段を総合的に用いて、民間の活動に関与してきた。
所得再分配・弱者保護
経済のキャッチ・アップ過程においては、成長が右肩上がりであったことから、変化の方向は明確であったものの、変化の幅が非常に大きかった。このため、行政は、低生産性部門に対する競争制限的な規制や助成措置の実施、後進地域の開発など成長に取り残された部門に対して補償的な施策を採用してきた。
相互依存的な行政と民間の関係
行政の方が民間に比べ情報収集能力に優れていたことや、市場機構に対する信頼が一般に乏しく、市場の内側から自発的な発展の可能性が生まれるとは信じられていなかったことから、民間は行政指導に従う一方、行政は危機に陥った民間を救済するという相互依存的な関係が生まれてきた。
我が国は、上記のような行政主導型の社会・経済システムのもと、勤勉な国民の努力と相まって、高度成長、生活水準の向上、さらには社会の安定という目標を短期間で達成することができた。
特に、オイル・ショック頃までは、我が国経済の国際化に対応して、民間企業の国際競争力を強めるために、行政は一定のイニシアティブを発揮し、既存産業の保護政策を推進するなど、民間の調整役としての機能を果たしてきたと考えられる。
このように、これまでの行政は、我が国がキャッチ・アップ過程にあったという環境のもとで、民間に対して指導的な調整機能を果たしてきた。このような行政の活動が成功したかどうかについては、それぞれの分野で様々な評価があり得るが、少なくとも全体としては大きな破綻を示さなかったし、成果を上げたと思われる分野が多い。