市場原理は、競争を通じ、「機会均等の原則」を満たすだけでなく、「効率的な資源配分」と「創造性の発揮、活動の改善などのインセンティブ(誘因)」を提供する能力を持つ極めて優れた仕組みであると言える。
しかしながら、競争だけでは、所得分配の不公平性が発生する可能性があることを初め、一定の条件の下では資源配分の効率性をも実現できないという意味での「市場の失敗」が発生することから、行政には、市場を補完してこれらの市場の失敗を是正し、効率的な資源配分と公平な所得分配を実現するものとして一定の役割が期待されている。
その反面、行政にも様々な「政府の失敗」が指摘されている。例えば、行政は、組織と権限を拡大するのではないか、既得権益を擁護するのではないか、責任が追求されることを回避するために情報を秘匿するのではないか、縦割り組織により全体の整合性が喪失するのではないか、また、政府には、破産が想定されていないため、活動が無原則に拡大するのではないかということが挙げられる。
主権はあくまで国民にあり、行政は国民からの負託に基づいて、市場の失敗を補完するために行政活動を代行する存在である。しかし、民間と異なって、行政の場合には、競争による淘汰を通じる市場規律や効率化のインセンティブが働きにくく、負託者である国民のコントロールが有効に機能しない可能性が常に存在する。
従って、今後の行政関与の在り方については、特に次の三つの点に留意しなければならない。
第一に、「市場の失敗」ばかりを強調するのではなく、「政府の失敗」を十分に認識し、行政活動の範囲を必要最小限にとどめる。
第二に、行政活動を遂行するに当たっては、行政活動に対する国民のコントロールを強めるとともに、可能な限り市場原理を活用して、行政サービスの需要者たる国民に、より効率的で質の高いサービスを提供する。特に、国民のコントロールを担保するため法律で縛ろうとすれば行政活動が硬直的になる一方、法規制が比較的緩やかな組織を用いることによって活動の弾力性を高めようとすれば、組織の規律が失われ、非効率な組織運営が行われるおそれがある。後者の問題に対する対応としては、市場原理を可能な限り活用し、行政活動に対する国民のコントロールを競争規律によって補完することや活動の目標を明確化して成果の評価を行うことが求められる。
第三に、行政の各機関は、国民の負託に応えるため、事前・事後において、その活動内容を国民に対し常に積極的に説明するという責任を負っていることを改めて認識することが重要である。
上記の観点に立ち、行政関与の在り方を見直すに当たっての基本原則を次の三つに集約する。