行政と民間の活動分担を見直すため、行政の行っている個別の業務に対して、判断基準を実際に適用する際には、次に示す事項に留意する必要がある。
判断基準を適用するに当たっては、原則例外を設けないとすることが重要である。しかしながら、実際には、行政の行っている個別の業務の性格が異なっているため判断基準を一律に機械的に適用することには困難が伴う。従って、それぞれの業務が対象としている市場や産業の成熟段階を勘案するなどの柔軟性も求められることに留意する必要がある。
また、基準と手法と領域とは相互に関連するものであり、おそらく全体としての選択肢はかなり多様なものにならざるを得ないことから、行政と民間の活動領域を明確化する評価システムや、多様な価値観の違いを調整し判断基準を守らせるための仕組みを作ることが検討課題となろう。
さらに、行政が担当すべきであると判断された分野でも、政策手段が施策目的に対応し、最も適切かどうかについて検討する必要がある。
判断基準に従って行政と民間の活動分担を見直す場合、現実には試行錯誤は避けられないし、その効果を厳密に予測することも難しいことから、行政と民間の活動分担の国際的趨勢を参考にし、具体的な事例に即して分析を行う必要がある。しかし、国民経済的観点からは、市場原理がより良く機能することによって、経済の効率化・活性化、国民福祉の向上、社会経済活動の公平化、多様性の尊重などが確保されるという大きなメリットが生まれる。また、グローバル・スタンダードに合ったシステムが形成されることによって、それに伴うコストが軽減され、民間活動全体が活性化されるというメリットも生まれる。その結果、非効率な領域が効率化され、経済が成長する余地が広がり、高齢化等、将来に待ち受ける様々な課題を克服するための一助となる可能性があるだけでなく、我が国の社会を第・章第1項で示した理念に少しでも近づけることができるものと期待される。
従って、行政の行っている活動全般にわたって、早急に判断基準を適用することが肝要である。ただし、その際、行政に属する様々な活動同士及び行政活動と民間活動が相互依存的であるために、改革の結果、システムが変化することは避けられず、場合によっては、我が国の社会経済システムの激変とそれに伴う社会的損失をもたらす可能性があることに留意する必要がある。特に、雇用問題を初めとして、セイフティ・ネットの確保が重要な要素であることは言うまでもない。
とはいえ、安易に激変緩和措置を多用することは、改革を長引かせそのコストを大きくするだけでなく、改革のインセンティブ自体を阻害する可能性も存在する。むしろ、行政と民間の活動分担を見直すに当たっては、その改革の目標を明確にするとともに、目標に向けてのプロセス及びタイムスケジュール(目標を実現するための年次行動プログラム)を明確にすることによって、関係者があらかじめシステムの激変に対処する準備を整えることが肝要である。このような目標とタイムスケジュールの明確化こそが、自己責任の原則に基づいた新たな時代の激変緩和措置と考えるべきであり、それを補完する従来型のセイフティ・ネットは、改革を阻害しないよう十分に注意して設計することが必要である。
なお、タイムスケジュールの設計に当たっては、様々な行政活動同士及び行政活動と民間活動の相互依存性に鑑みて、「一挙に」そして「全面的に」制度変更を行うことが有効であるとも考えられる。これらの点を勘案すると、たとえば改革は一挙にかつ全面的に行うこととし、改革の時期については相応の猶予期間を持って予告することも一案であろう。他方、いくつかの事業については実験的に新しいシステムを導入し、その経験を基に新しいシステムを拡大していくことも有効であると考えられる。
ここに示した判断基準に従って、行政改革を進めるに当たっては、立法・司法を含めたチェック・アンド・バランスの確保を図ることが必要不可欠である。その際、ともすれば、「行政の隠れ蓑」、「縦割り行政の弊害の助長」という問題が指摘されているいわゆる審議会の在り方についても問い直す必要がある。
この他、審議会に代替するものとして、公聴会(Public Hearing) の一層の活用やリファレンダム(行政の政策提案に対する住民投票) 制度の導入について検討することも考えられる。