1 行政改革委員会の任務と活動経過
行政改革委員会(以下「委員会」という。)は、第3次臨時行政改革推進審議会の最終答申等を受け、法律に基づき、平成6年12月19日に総理府に設置され、来る12月18日をもって3年にわたる活動を終え、解散する。
委員会に課せられた任務は、ヌ規制緩和の実施状況の監視、ネその他の行政改革の実施状況の監視、ノ行政情報公開に係る法制度の調査審議であり、委員会は、監視と調査審議の結果に基づいて、内閣総理大臣に意見を提出する。
委員会は、従来の臨調・行革審のように、内閣総理大臣から諮問を受け、これに対して答申するという仕方ではなく、委員会が能動的・自律的に監視し、調査審議することにより、独立性、自立性を強く持つものである。
委員会は、規制緩和について専門的に検討するため、平成7年4月に、規制緩和小委員会を設置した。委員会は、これまで平成7年12月と平成8年12月の2回にわたり、同小委員会から提出された報告を検討の上、「規制緩和の推進に関する意見」を取りまとめ、内閣総理大臣に提出した。
また、委員会は、行政情報公開について専門的に検討するため、平成7年3月に行政情報公開部会を設置した。行政情報公開に関する調査審議の結果に基づく意見の提出は、法律上、2年以内とされ、同期限に向けた部会での審議の結果を基に、委員会は、平成8年12月に、情報公開法要綱案を柱とした「情報公開法制の確立に関する意見」を内閣総理大臣に提出した。
さらに、委員会は、監視活動を通じ、行政改革の推進のためには、公的部門と民間部門の活動領域を整理するための判断基準を策定することがまず必要と考え、このための専門的な検討を行う組織として、平成8年3月に官民活動分担小委員会を設置した。同小委員会の検討結果を受け、委員会は、平成8年12月に「行政関与の在り方に関する基準」を内閣総理大臣に提出した。
以上のとおり、委員会は、平成8年12月までに四つの意見を提出してきており、それらは、政府において最大限尊重することが閣議決定され、実施が図られている。
委員会は、これらの意見提出後も、引き続き規制緩和と官民活動分担の二つのテーマについて、小委員会の場を中心に検討を進めてきた。今回提出する意見は、二つの小委員会のその後の検討の成果を中心にしつつ、3年間にわたる委員会活動で得られた認識を集大成し、取りまとめたものである。
我が国の現状を見ると、経済・社会の活力が低下していること、中央・地方双方において財政赤字が巨額に上ること、高コスト構造・非効率部門が存在すること、個人として豊かさの実感が依然として得られないこと、経済を始めとして様々な面で国際的な魅力が低下していること、社会の各層でモラルの低下が見られること等、構造的な問題が山積している。
一方、少子・高齢化、経済・社会のグローバル化の急速な進展や、環境問題・人口問題等地球的規模での課題に対する取組の必要性の高まりなどにより、上記のような問題を解決することがますます困難になっている。
委員会は、発足当初の平成7年2月のメッセージで示したように、「国民が笑顔で、活き活き生き生きと暮らせる社会」、すなわち、「国民が安心して生活できる条件を整えた上で、多様な生き方が実現できる、選択肢が沢山あり、それを自己責任原則の下で自由に選択でき、かつ公正で活気ある社会」の建設を目指してきた。しかし、現実は、委員会が目指す姿からは、なお程遠いと言わざるを得ない。
山積する問題に対処し、あるべき姿に近づくため、我が国は、今こそ、社会・経済の構造的な改革を断行しなければならず、このような観点に立って、我が国の行政システムの抜本的な見直しを行うことが必要である。
我が国の行政は、生産者・供給者重視、過剰な事前規制・行政関与(とりわけ、市場ではなく行政が財・サービスの価格や供給量を調整する仕組み、行政による利害調整・政策誘導の活発な実施など)、大きな裁量、中央集権的なシステム、画一性・平等性の重視といった点に特徴があると指摘されている。これらの諸点は、欧米へのキャッチアップという国家目標が明確であった時期を通じて形成されてきたものであり、これまでは有効に働き、国民が支持していた面もあった。しかしながら、世界の中の日本の位置づけも大きく変化した今、我が国が種々の解決しがたい構造的な問題点を抱えるに至った一因は、キャッチアップ体制時代のままの行政システムにあると考えられる。
既に、我が国は、国民経済の中で民間部門がかなり成長し、経済大国といわれるまでになっている。また、国民のニーズも多様化し、生活者・消費者の立場に立った施策がより望まれる一方、透明性・公正性が一層求められるとともに、経済・社会のグローバル化への対応、国際的調和が必要とされている。今後においても、なお従来のような行政運営を続ければ、国民の自由な活動や経済・社会の活力を阻害し、また、国民の望まない行政運営のために負担が強いられることになる。
したがって、規制を含む行政関与の範囲を大胆に縮小し、公正有効競争下において市場原理が働くような経済・社会システムの形成を目指すとともに、行政の透明性を高め、出来るかぎり国民のコントロールが働くような仕組みにすることが必要である。このため、ヌ民間でできるものは民間に委ねる、ネ国民本位の効率的な行政を実現する、ノ行政は国民に対して説明責任を果たす、の三つの基本的な原則に従い、行政運営の在り方を根本的に見直していくことが必要である。このように行政運営の在り方の大幅な転換を果たさない限り、我が国の将来に対し、明るい展望を見出すことはできない。
以上のような考え方の下、委員会は、規制緩和の推進や官民の活動領域の分担の見直しの問題等に取り組んできた。
本意見では、規制緩和については、2次にわたる意見提出後の新たな事項等についての検討の結果と、これまで委員会が意見の中で指摘した事項の政府の実施状況についての見解を提示している。また、官民活動分担については、上記の「行政関与の在り方に関する基準」を更に深め、行政関与の仕方の制度設計について検討するとともに、同基準の適用を実効あるものとする仕組みについて検討を行った。これらは、後に、章を設けて、詳細に述べることとする。
委員会は、規制緩和の推進、官民活動分担の見直し以外にも、随時、行政の制度及び運営の改善に関する事項について、監視活動を行ってきた。
今や、我が国の構造改革は、喫緊の課題であると広く認識されており、政府において、行政改革の推進に向けた各種の取組がなされている。また行政改革と合わせ、財政構造改革、社会保障構造改革、経済構造改革、金融システム改革、教育改革が、6大改革として、一体的に押し進められている。こうした政府の取り組み姿勢を評価したい。
行政改革(規制緩和、官民活動分担の見直しを除く。)についていえば、中央省庁の再編等についての行政改革会議の最終報告の取りまとめ、地方分権推進計画の策定に向けての地方分権推進委員会の4次にわたる勧告、第9次定員削減計画の策定を始めとする公務員の定員の縮減に向けた取組、累次にわたる特殊法人等の整理合理化方策の閣議決定、公務員制度調査会による人事管理システムの在り方全般についての調査審議、その他、公益法人改革、財政投融資の見直しなどが行われている。
中でも、行政改革会議において、規制緩和や官民活動分担についての委員会の成果や地方分権の進展などを踏まえつつ、内閣総理大臣のリーダーシップの下、精力的な審議を行って取りまとめた最終報告は、21世紀における日本のあるべき国家・社会像を踏まえ、新たな中央省庁の在り方等について大胆な行政改革の具体策を示したものである。同報告に述べられているように、今後、「行政関与の在り方に関する基準」を基本として官民の役割分担を徹底的に洗い直すなど行政の責任領域の見直しを行うことにより、同報告に示された内容が実行に移される際には、改革の意義・効果が一層明らかになると期待される。
また、財政構造改革の分野においても、政府・与党における財政構造改革会議の検討の結果、財政構造改革の推進方策が取りまとめられ、閣議決定されるとともに、同方策に沿った「財政構造改革の推進に関する特別措置法」が平成9年12月に公布・施行されるなど、大きな進展を見せている。
さらに、介護保険制度の創設や医療保険制度改革などを内容とする社会保障構造改革を始め、他の6大改革のそれぞれにおいても、具体的な進展が見られるところである。
政府は、このような各般にわたる改革の努力を今後とも継続して強力に進めるべきであり、委員会としては、大きな成果が得られることを期待する。
終わりに、委員会が主として取り組んできた課題の一つである情報公開の問題については、政府は、委員会が昨年12月に提出した「情報公開法制の確立に関する意見」を最大限に尊重し、平成9年度中に所要の法律案を国会に提出することとしている。委員会の意見に沿った法案をできるだけ早期に国会に提出するよう努めるべきである。また、同法案の成立後は、必要な準備を整えた上で、可能な限り早く施行するよう努めるべきである。また、委員会意見で示している情報公開法要綱案において、特殊法人については、政府において、情報公開に関する法制上の措置その他の必要な措置を講ずるよう規定しているところであり、政府は、このための検討を的確に進める必要がある。