1 問題意識
ヌ 平成8年12月16日、委員会は「行政関与の在り方に関する基準」(以下「判断基準」という。)を意見として内閣総理大臣に提出した。
ネ 判断基準では、行政の関与の可否に関する基準により、行政が関与する必要があるか否かを判断する基準を示した。
ノ また、行政の関与の仕方に関する基準(以下「仕方に関する基準」という。)により、行政の関与が必要である場合の関与の仕方として、政策目的に照らして最も適切な政策手段・形態を選択する必要があることを示した。
この中で、政策手段・形態を選択するに当たって留意すべき視点として、行政の関与の形態を理念的に分類した別表を提示した(別紙1参照)。別表においては、行政が関与する形態を、第2領域(民間主体の活動に対する規制・助成措置等による行政関与)、第3領域(行政機関以外の行政主体の機関によるサービスの供給)、第4領域(行政機関によるサービス供給)に区分している。
(注)第1領域とは、行政が関与しない民間主体の活動を指す。
ハ 委員会は、上述したとおり、判断基準において仕方に関する基準を示したものの、特に第3領域の活動及びこれに関連して現行の特殊法人等の活動について、その性格や内容が多様であり、必ずしも組織運営に係る当該組織の権限と責任が明確になっているとは言い難いことに鑑み、この基準を更に深め、事業活動の定期的な見直しが実施されるようなダイナミックな仕組みや、その特性に応じた行政関与の仕方や組織の在り方の理念型(制度設計)を示す必要があるとの認識を持つに至った。このような観点から、官民活動分担小委員会では、第3領域を中心に、仕方に関する基準を補強するため、特殊法人等からのヒアリングを交えながら、19回にわたり検討し、7月29日には、その結果を中間的に取りまとめた「行政関与の仕方に関する制度設計(中間取りまとめ)」を公表した(注)。
なお、ここでは、第3領域の活動を行う「行政機関以外の行政主体の機関」を「政府法人」と呼ぶこととする。
(注)第2・4領域の活動についても視野に入れて検討。
ヒ 官民活動分担小委員会では、8月には、各省庁に対して、制度設計に関する中間取りまとめについての意見を照会し、特殊法人等の8機関を加えた15省庁から回答が寄せられた。
その後、各省庁からの回答について、検討を行った結果、委員会は、最終的にその結果をここに取りまとめることとした。
フ 今後、政府において、特殊法人等の見直しや独立行政法人の制度設計の具体的な適用などに際しては、この「行政関与の在り方に関する制度設計」を参考にされたい。
2 制度設計を検討するに当たっての基本的視点
ヌ 委員会は、判断基準の中で、3つの基本原則、すなわち、民間でできるものは民間に委ねる、国民本位の効率的な行政、説明責任の各原則を示した。
ネ 上記の問題意識のもと、制度設計を検討するに当たっては、これら3つの基本原則との関連で、次に示す視点が重要である。
a 民間でできるものは民間に委ねる
可能な限り市場規律を活用し、行政活動の範囲を必要最小限にとどめる観点から、組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直し(廃止・民営化など)が実施されるようなダイナミックな仕組みを構築するとともに、行政主体により活動する場合でもその運営に当たっては民間的経営手法の導入を図る。
(注)ここで言う「組織形態」とは、行政主体・民間主体という区別に加え、行政関与の仕方・組織の在り方なども含む概念を指す。
b 国民本位の効率的な行政
行政サービスの需要者たる国民に、より効率的で質の高いサービスを提供するため、各組織の権限と責任を明確にした上で、組織運営の自主性を高めるとともに、行政機関による(行政機関を通じた)チェックを事前的なものから事後的なものに転換し、しかも必要最小限にとどめる。これと同時に、国民自身が直接チェックする仕組みを構築するなど監視機能を充実させる。
c 説明責任
国民自身による直接的なチェックなど監視機能の充実を図るため、説明責任を果たすに当たっては、その説明は国民に分かりやすく行うとともに、情報公開を徹底する。
ノ 上記ネの基本的視点に基づき、委員会が検討した結果の概要を示すと、次のとおりである。
a 制度設計を行うに当たっては、上記の基本原則のもと、市場規律をより一層活用することが重要である。そのためには、
b 市場規律がより働きやすい組織形態へ移行するインセンティブを与えるとともに、個々の組織運営についてもその自主性を高め、業績評価に基づく事後的チェックを充実し、可能な限り市場規律を活用するように仕組むことが重要である。この場合、特に、その運営に際してモラルハザード(規律の喪失)が発生しないようにあらかじめ制度的に仕組むとともに、事後的チェックの充実に資する観点からの情報公開も推し進めることが必要である。
また、これと同時に、行政部内でも、監視機能を充実させ、チェック・アンド・バランスが働くように工夫するとともに、社会・経済情勢は絶えず変化していることから、制度設計についても固定的に考えず、絶えず見直しを行うことが必要である。
このような観点から、組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しを定期的に繰り返すことにより、第3領域から第2領域、第1領域へと移行(廃止・民営化など)し、たとえ第3領域の活動にとどまるとしても、潜在的な競争を含む広い意味での競争の導入を図ったり、その成果を有効かつ客観的に評価できるように工夫するなど市場規律のより働きやすい組織形態へと移行していくダイナミックな仕組みを構築する必要がある。同時に、行政が関与する事業活動を、特に市場規律の働きやすさに着目して類型化し、その分類に応じて行政関与の度合いに程度の差を設けて、市場規律を可能な限り活用した行政関与の仕方や組織とするとともに、その内容を定期的に見直していくことも必要である。
3 組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しを迫るダイナミックな仕組み
(1) 新たな事務運営の手順
上記2の観点から、次に示す一連の手順を基本として、行政関与の仕組みを構築することが重要である(別紙2参照)。
a 現在の行政サービスについて、業務目的・目標の精査、業績の分析・評価など業務内容を洗い直し、判断基準に基づいて、事業活動の廃止・民営化など組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しを実施し、これらの内容を公表する。その際、可能な限り、市場規律がより働きやすい組織形態に移行するための方策を検討する必要がある。【業務内容の洗い直し、見直しの実施】
b 抜本的な見直しを実施してもなお第3領域として活動する必要のある政府法人にあっては、所定の手続きに従い、当該政府法人の長を選定するとともに、一定の期間内に達成すべき業務目標を策定し、これらの内容を公表する。【政府法人の長の選定、業務目標の策定】
c 業務運営については、政府法人の長が責任を持って自主的に行う。【業務運営】
d 業務目標の対象期間(原則として5年間)が終了した時点に、当該政府法人の長及び主務大臣が、業務運営の結果である業績を徹底的に分析・評価する。さらに、当該政府法人の長・主務大臣以外の立場からその評価結果をチェック・審査する。なお、これらの内容については公表する。【業績の分析・評価、業績評価の審査】
e 業績評価の結果や判断基準に基づき、事業活動の廃止・民営化など組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しを実施し、これらの内容を公表する。その際、可能な限り、市場規律がより働きやすい組織形態に移行するための方策を検討する必要がある。【見直しの実施】
f bの手続き【政府法人の長の選定、業務目標の策定】に戻る。
(2) 監視機能の充実
ヌ 上述した一連の手順の中で、行政部内に、当該政府法人及び主務大臣から独立して、業績評価の結果をチェック・審査(業績評価の審査)し、事業活動の廃止・民営化など組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しの実施(見直しの実施)を担保する仕組みを構築することで、政府法人の運営に対するチェック・アンド・バランスを充実させるとともに、組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しに向けてのインセンティブを与えることが重要である。
ネ 上記ヌの観点から、大要として、次のような仕組みを設ける必要がある(別紙3参照)。
a 行政部内に、「業績評価の審査、それに基づく組織形態の見直しを含む業務の見直しや政府法人の長の選定(選考)の状況の監視」を担当する行政組織(仮に「政府法人担当機関」と呼ぶ。)を設ける。
(注)ここで言う政府法人担当機関は、政府法人の活動を横断的に総合調整する部局を意味しているが、その在り方については、簡素・効率化の視点も踏まえ、検討される必要がある。
b 業務目標の区切り毎(原則として5年程度毎)に主務省庁、政府法人担当機関等からなる見直し実施チームを編成し、業績評価の審査結果等に基づき業務の抜本的な見直しのための方策について検討・協議することも考えられる(定期的見直しの実施)。
ただし、政府法人担当機関による業績評価の審査結果等で重大な制度的問題が指摘された場合(可能な限り、あらかじめルールを設ける必要。)には、政府法人担当機関が、主務大臣・政府法人の長とは独立した形で、組織形態の見直しを含む抜本的見直し方策を検討の上、自らの責任で勧告する仕組みを導入する必要がある(抜本的な見直しの実施)。
c 国民一人一人が自ら業務目標、業績評価の内容や実施状況などに対して監視を行う必要があることを強く認識しなければならない。このような観点から、有識者や国民の代表で構成される機関を設け、監視機能を充実させることも考えられる。ただし、この場合、当該監視機関の構成メンバーの責任を明確にするとともに、監視に当たってのルールを確立しておく必要がある。
(1) 類型化の必要性とその基本的考え方
ヌ 行政が関与する事業活動については、上記2に示した基本的視点に立って、上記3イに示した一連の手順に沿い、最も適した実施主体を選択する必要がある。その際、既存の組織の枠組にとらわれることなく、事業活動に着目して、まず民間主体(株式会社、公益法人)による供給を優先し、順次、民間主体への委託契約、行政主体(行政機関、政府法人)による供給を検討することを基本とする。また、選択した実施主体についても、固定的に考えるのではなく、定期的に見直しを行う必要がある。
ネ 委員会では、行政が関与する事業活動について、その特性、特に市場規律の働きやすさに着目した一定の基準で類型化を行い、実施主体を選択するに当たっての考え方を示すとともに、分類に応じた行政関与の仕方・組織の在り方を検討し、さらには、その内容を定期的に見直していくことが重要であると考えている。
ノ また、類型化に当たっては、市場規律の働きやすさに加え、事業活動と政策目的との関わりにも着目して分類する。
ハ さらに、行政機関にするのか、それとは別組織とするのかについての検討が、別途、必要である(この点については、下記エを参照。)。
(2) 類型化の例示
ヌ 委員会では、市場規律の働きやすさによる分類の視点として、「事業性(受益者負担の在り方と費用負担の仕方)」と「競争性(競争の有無)」の2つの側面に着目している。また、政策目的との関わりに着目した分類の視点として、「行政が関与する際の目標とその成果の可測性」(以下「可測性」という。)に着目している。
ネ より具体的には、別紙4に示すとおり、
a 「可測性」については、
(注)「行政が関与する際の目標が事前に定義可能である場合」とは、規制や委託契約を明確に規定でき、政策的な裁量の余地が相対的に小さい場合を指す。
b 「競争性」については、
・ 市場を通じた競争状態の有無に着目した「受益者の自由な選択に基づく競争 (市場を通じた競争)を創出することが可能な場合」と「それ以外の場合」の2区分。
c 「事業性」については、
・ サービスの受益と費用の負担の関係に着目した「サービスの受益者が特定でき、当該受益者に負担を求めることが可能な場合」と「それ以外の場合」
・ 費用負担の仕方に着目した「自由意思に基づく負担」と「強制的徴収による負担」
を組み合わせた3区分。
d 「可測性」の2区分と「競争性」の2区分の組み合わせによる3区分と、「事業性」の3区分とのマトリックスに基づき、第2領域から第4領域を10に分類する。
(3) 類型化に従った実施主体に関する基本的考え方
ヌ 上記イに示すとおり、行政が関与する事業活動の実施主体については、それぞれの活動毎に、まず民間主体(株式会社、公益法人)による供給を優先し、順次、民間主体への委託契約、行政主体(行政機関、政府法人)による供給を検討することを基本とする。
ネ この基本に沿って、上記ウに例示した類型化に従った実施主体に関する考え方を示すと、次のとおり。
a 「可測性」、「事業性」共にある場合、その設立形態は民間主体とし、行政関与は規制措置で行うという形とする必要がある。また、「可測性」、「競争性」はあるものの、「事業性」が欠ける場合については、民間主体に対する委託契約とする必要がある。
b 他方、「可測性」はあるものの、「競争性」、「事業性」に欠ける場合については、ある程度の行政関与が必要であると考えられることから、行政主体による供給も可能とするが、その場合には、特に公益法人による供給が可能かどうか、厳しく吟味の上、行政主体としなければならない理由を明らかにし、公表する必要がある。
c また、「可測性」がない場合についても、行政主体による供給も可能とするが、その場合も、行政主体としなければならない理由を明らかにし、公表する必要がある。
d なお、行政主体とする場合には、さらに、行政機関とするのか、政府法人とするのかについて、別途、検討の上、その理由を明らかにし、公表する必要がある。政府法人とする理由としては、例えば、政治・行政からの相対的独立性の確保、高度な専門性、効率的な運営などが必要な場合が想定されるが、この点については更に検討する必要がある。
ノ 「行政機関以外の行政主体の機関」を指す「政府法人」としては、国庫からの出資がその大部分を占め、特別な法律に基づき行政機関から特別な関与を受けている法人を、また、「民間主体」としては、民間による出資が主体である株式会社や公益法人を、概ね、想定しているが、民間主体移行への過渡的形態の法人の取扱いや法的問題を含め、さらに検討する必要がある。
ヌ 上記2の基本的視点に示すとおり、行政の関与については、事前的チェックから事後的チェックに転換するため、業務運営への関与の度合いを弱め、その自主性を高める一方、成果に対する関与を充実させることを基本とする。
ネ このため、従来、主務大臣が負っていた責任についての考え方を転換し、行政の関与の度合いに応じて、主務大臣と政府法人の長の間で責任(特に説明責任)を分担する方向で考える必要がある。
ノ 行政関与の度合いに関しては、上記4の類型化に基づき、
・ 業務目標の策定、業績の評価手続きなど事業面での関与
・ 政府法人の長の選定・選考など人事面での関与
・ 会計基準、助成措置、清算処理など財務面での関与
の3つの側面について、次に示す方向を基本に制度設計を行い、それに見合った責任の明確化を図る必要がある(別紙5参照)。
a 市場規律が働きやすい組織形態の場合は、市場規律を活用する観点から、行政関与の度合いを相対的に弱くすることにより、当該法人の長の裁量を大きくし、組織の自主性も高めると同時に、それに対応して、業務結果に対する説明責任については、むしろ当該法人の長が負う形とする必要がある。
b 他方、市場規律が働きにくい組織形態の場合は、行政関与の度合いを相対的に強くし、そのため、当該法人の長の裁量が小さく、組織の自主性も低くなることから、業務結果に対する説明責任については、当該法人の長の負える範囲が限られるので、それに対応して、主務大臣の責任を明確にする必要がある。
ハ なお、政府法人の活動についてはその性格や内容が多様であることから、具体の制度設計に際しては、一律に機械的に考えるのではなく、業務の特性に応じて最も適切なものを選択する必要がある。その際、その制度設計が最も適しているかについて、国民の視点に立って監視する仕組みを作ることが重要である。
(1) 事業面での行政関与(業務目標の策定、業績の評価手続きなど)
ヌ 当該政府法人が設立される際に定められる業務目的については、当該政府法人の存廃・業務の抜本的見直しに資するよう明確かつ簡潔にする必要がある。これにより、中期や短期の業務目標を適切に設定できるようになる。
このような観点から、業務目的の簡素化のためには、効率性を損なわない範囲内で政府法人の分割(例えば、一つの政府法人の中に幾つかの勘定がある場合など)を検討することも一案である。また、業務目的を具体化した結果、同様の業務目的を持っている政府法人が複数あれば、その整理・統合などを図る方向で検討する必要がある。
ネ 業務目標の策定、業績の評価に当たっては、
a 「特殊法人の業績評価に関する指針」(平成3年6月28日総務庁勧告)に示された目標・業績に加え、政策全体の中での位置付けを勘案しつつ、当該政府法人が設立される際に定められる業務目的に沿った形で、政策効果を含めた広い概念の目標・業績とする必要がある。
b 判断基準で示されている「費用と便益の総合評価(可能な限りの数量的評価の実施)」の一環として、また、事後的チェックの充実を図るとともに、国民に分かりやすい形で説明責任を果たすため、業務目標・業績評価を可能な限り数量化する必要があり、その際、数量化した業務目標・業績評価を公表することが重要である。また、数量化した業務目標・業績評価については、漸次、その内容を改善・充実する必要がある。
なお、数量化に際しては、複数の指標を組み合わせるとともに、数量化の補強の観点から、数字で表せない部分を含めて分析・評価を行う必要がある。
ノ 業務目標を数量的に設定するに当たっては、国民に分かりやすくする観点から、可能な限り具体的かつ簡明な指標の設定を心掛ける必要がある。
ハ 政策効果や組織運営効率化の効果などが現れるには一定期間を要することから、中期的な期間(例えば、5年間程度)の中期業務目標を設定の上、その対象期間終了時点に、徹底的な業績評価を実施し、組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しに活用する必要がある。この他、中期業務目標の道標として、年度業務目標を設定する。
ただし、市場規律が働きにくい組織形態、少なくとも「受益者負担を求めず、国庫からの助成措置で業務を遂行する政府法人」については、毎年度の予算によって決まる助成措置額が業務目標・業績評価の重要な要素となることから、年度毎の業務目標・業績評価を重視し、その結果に応じて、見直しを行なう必要がある。
ヒ 中期業務目標の策定、その業績評価については、主務大臣・政府法人の長によって構成される政策協議の場で実施し、それ以外の場での主務大臣の関与を制限する(政策協議の議事録は公表)。
年度業務目標の策定、その業績評価については、当該政府法人で実施・公表し、主務大臣の関与は、組織の自主的な運営を阻害しない範囲で必要最小限にとどめる(例えば、年度業務目標については報告徴収、業績評価についてはその結果のチェック・審査にとどめる。)。
フ なお、目標管理は、その運用を間違えると、数値目標を定めた場合、その目標だけを重視し、経済社会情勢の変化に目標が即応せず実態に合わない行政サービスが提供されたり、目標に掲げられた項目のみを重視し、他を度外視するノルマ主義の弊害が生ずるなどの恐れもあることにも留意すべきである。また、これら弊害を克服しようとして、仮にきめ細やかな目標を設定した場合、モニタリング・コストが膨大なものとなる恐れもある点への留意も必要である。
ヘ 判断基準の別表に示されている第2領域の民間主体に対しても、国から助成措置や規制措置を受けている業務について、法令で定める場合に限り、業務目標を策定の上、業績を分析・評価するとともに、当該助成措置や規制措置について定期的に見直す必要がある。その際、民間の自由な発意や運営の自主性を尊重する観点から、主務大臣の関与は必要最小限にとどめる必要がある。
(2) 人事面での行政関与(政府法人の長の選定・選考など)
ヌ 政府法人においては、基本的に業務運営の全てをその長に任せることから、その業務結果に対してその長が全ての責任を負うことにより、責任の所在を明確にする必要がある。
ただし、事業の性格によっては特別な理由で、その長を含む役員全体で責任を負う必要がある場合もあり得ることから、この点については別途の検討が必要である。
ネ 政府法人の長の選定・選考に当たっては、
a 市場規律が働きやすい組織形態の場合には行政関与を相対的に弱くし、市場規律が働きにくい組織形態の場合には行政関与を相対的に強くするという方向を基本にする。なお、行政関与の方策としては、主務大臣が政府法人の長の選定を行う「主務大臣による任命」、主務大臣が任命権を持たず、選定された政府法人の長を承認する「主務大臣による認可など」の他、主務大臣に解任権のみを付与することなどが考えられる。
b 広く各界の有識者の中から適任者を人選するとの見地から、民間人の登用も積極的に進めるべきである。その際、これまでの日本の雇用慣行上、馴染みは薄いものの、民間人、当該政府法人の関係者、国家公務員を含め広く公募する制度の導入を検討する必要がある。
ノ 政府法人の長については、
a 中期業務目標の達成という観点から選定していることから、その任期は中期業務目標と同期間(5年間程度)とすることが考えられる。また、再任の可否や賞与・退職金の支給額については、業績評価に基づくあらかじめ定められたルールに従い決めることも一案である(その際、政府法人の長による弁明の機会を留保する。)。
この他、その任期を中期業務目標の期間の半分程度(2〜3年程度)とし、その任期満了時点に業績評価を実施して当初予定したとおりの業績を上げていない場合には再任しない方策や、市場規律が働きにくい組織形態については任期を短くする方策も考えられる。
b 解任については、役員欠格条項に加え、業務目標の策定前に、あらかじめそのルールを定めておく必要がある。その際、業績評価の結果に基づくペナルティー(例えば、退職金等の減額など)を課すことも考えられる。
ハ 政府法人の長以外の役員については、
a 政府法人の長が全責任を負って業務運営を行う観点から、基本的に役員の任免権を政府法人の長に付与する。従って、役員に対する行政関与は、政府法人の長の裁量を阻害するおそれがあるため、原則として認めない。なお、監事については、法人自体の内部監査機能を担保するため、主務大臣の関与を認める。
b ただし、役員も運営責任の一端を担っており、役員への登用の透明性・公平性を確保することが重要である。このような観点から、政府法人の長が各役員の担当業務について、その業績を評価し、公表することも一案である。
ヒ 政府法人については、組織形態の見直しを含む業務の抜本的見直しを定期的に実施することから、長期的視点に立った人材の確保・育成、士気の保持を困難にするなどの問題が生じる可能性が高い。
これらをトータルな視点で捉え、関係者の意見も踏まえ、検討する必要がある。例えば、
a 人材の確保・育成を含む政府法人全体の雇用問題を専門に担当する機関を設け、国家公務員退職者も含め、人材の活用を図る
b 一部の職員に対して、任期制(例えば、任期を定期的見直しの周期である5年間とする一方、報酬額に弾力性を持たせる。)を導入する
c 雇用の流動化を促進する観点から、退職金などについて、例えば前職の期間を通算できることとするなど不利にならないような取扱いを行う
d 政府法人、中央省庁、地方自治体、民間主体との間の人事交流を促進し、人材の有効活用を図るほか、労使の当事者能力を高めるため、柔軟な人事制度・運用がなされる工夫をする
などの仕組みを検討することも一案である。
(3) 財務面での行政関与(会計基準、助成措置、清算処理(資金調達を含む)など)
ヌ 判断基準に示されているとおり、まず企業会計原則に則って会計処理を行うとともに、国民による監視の充実に資するためにも、民間に求められる以上の情報を積極的に提供することが重要である。その際、財務関連情報の充実を図るため、資本的結びつきにとどまらず、人的結びつき、事業的結びつきなどにも着目した関連法人を含む連結決算や将来にわたる事業リスクを明らかにするための情報(後年度負担などリスク負担に伴うコストの割引現在価値を明示するなど)の提供に努める必要がある。
ネ 助成措置を講ずるに当たっては、
a 受益者負担を求める政府法人については、市場規律が働きやすいことから、業務運営の自主性と業績(特に効率性)向上のインセンティブを与えるため、中期業務目標を策定する際に一定の厳格なルールを設け、公表するとともに、その期間中に欠損が生じてもルールを超える助成を行わないこととする必要がある。なお、同様に、剰余金が生じてもルールを変更しないことが必要である。
そのための方策として、例えば、中期業務目標を策定する際に、出資(あるいは基金の造成)を行うことも考えられる。
(注) 1 中期業務目標の対象期間中に必要な補助金をあらかじめ定める方策については、憲法上の予算単年度主義の原則等も踏まえ、複数年度にわたる予算額を定められるか否かなど法的検討が必要である。
2 剰余金の取扱いについては、国庫が出資している以上その剰余金は国庫に属するとの考えがある一方、組織の自由度を高める必要があるとの考えもあることから、最終的には一定のルールを設けることも考えられる。
b 受益者負担を求めず、国庫からの助成措置で業務を遂行する政府法人の場合は、毎年度の予算で助成額が定められる必要があるものの、これについてもあらかじめ一定のルールを設ける可能性を検討する必要がある。
ノ 廃止・民営化など組織形態の抜本的な見直しによって組織の変更が行われた場合、債権・債務関係がどのように変更されるかに関するルールを予め定め、その周知徹底を図る必要がある。
ハ 政府法人による資金調達に当たっては、行政部内の専門機関に、各政府法人の財務状況の審査等を行わせることが有効であろうが、その際、当該専門機関に規律が働くよう厳格な審査を確保するための工夫や非政府保証の機関債発行などによる市場規律の活用も含めて検討を深める必要がある。
この他、市場規律の活用を図る観点から、市場において必要な政策コストを評価できるなどのメリットがあるレベニューバック債(当該政府法人の事業のうち一部を他の事業とは完全に区別して、その事業による収入を担保にする債券)やアセットバック債(既往の貸付債権等の資産に裏付けられた債券)などの積極的な利用を検討する必要がある。
(4) 見直しルールの確立など
ア 見直しルールの確立
組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しのためのルールをあらかじめ確立しておくことが重要である。なお、ルールを定めるに当たっては、次の点に留意する必要がある。
a 判断基準に従い、本当に行政の関与が必要な業務であるのか、民間に任せることができないのかを厳しく吟味する必要がある。とりわけ、政府法人を設立する際に定められる業務目的の達成度合いを検証する必要がある。
b これに加え、独立採算的な運営を行う政府法人については、市場規律を通じたチェックとして、例えば、累積欠損があらかじめ定められた基準を超えた場合には、その時点で、一旦、廃止・清算の上、当該行政サービスの新たな仕組みを検討することも必要である。
イ 情報公開の徹底
政府法人についても、その業務運営に関する説明責任を果たす観点から、業績の分析・評価の結果などを積極的に提供・開示する必要がある。そのため、別途、委員会が提出した「情報公開法制の確立に関する意見」(平成8年12月16日)に示された情報公開法要綱案の趣旨に則り、政府法人を対象に、情報の提供及び開示に関する法整備などの措置を行う必要がある。
また、第2領域の民間主体についても、行政機関等との関係にかかわる部分に関しては、情報公開のための何らかの措置を講じなければならないケースもあり得ることに留意する必要がある。
ウ 業績向上のインセンティブ
ヌ 業績向上のインセンティブを働かせる観点からは、組織の当事者能力を高めるため、職員の処遇問題(給与水準などの労働条件)を含む業務運営全体について、基本的に政府法人の長の裁量に任せる必要がある。その際、業績を厳格に評価する仕組みを導入することが重要である。
ネ なお、コスト削減へのインセンティブについては、費目間の配分は基本的に政府法人の長の裁量に任せることとし、そのため、業務目標の設定に当たっても、人件費などの費目毎ではなく、総費用で歯止めをかける方策があることに留意する必要がある。
ヌ 委員会が検討結果を取りまとめるに当たっては、制度設計にかかる問題点を網羅的に取り上げた訳ではなく、第3領域の活動である政府法人が行う事業活動を中心に、組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しを迫る仕組みや事業の特性に応じた行政関与の仕方・組織の在り方の理念型(制度設計)を示すための基本的事項に重点を置いた。当然のことながら、今回、ここに取り上げた事項以外にも、重要なものがあることは十分に認識している。
ネ 特に、業務の抜本的な見直しとの関連で、組織形態の見直しの一例として挙げている「廃止」には、第1領域の活動(行政が関与しない民間主体の事業活動)への移行のほか、地方公共団体への業務の移譲も含まれるが、この点については検討が必要である。
ノ また、民間主体による活動を優先するとしても、現行の民間活動の在り方が理想的である訳ではなく、第2領域の活動(行政が関与する民間主体の事業活動)の在り方や公益法人の在り方などについても十分な検討が必要である。
ハ この他、監視機能との関連で、委員会は、行政部内における当該機能の充実を取り上げたが、判断基準に示したとおり、立法・司法を含めた三権間の相互チェックが有効に働くことが極めて重要であり、特に、組織の見直しを含む業務の抜本的な見直しのため、立法府自らが、業績評価に基づく監視機能を充実させることが期待される。