1 この2年間の活動を振り返って
(1) 平成8年の活動
ア 官民活動分担小委員会の設置経緯と問題意識
平成6年12月19日に発足した委員会は、規制緩和の実施状況の監視、行政情報公開に関する調査審議に続き、特殊法人の問題を端緒として、公的部門の守備範囲が適切かどうかという視点から、新たなテーマとして何がふさわしいかを約1年間にわたり検討した。その結果、社会経済情勢や国民ニーズの変化に伴い、行政部門についても、その見直しが迫られ、これまでにも臨調・行革審等による検討を始め行政改革の努力が続けられてきたが、行政関与の在り方に関する基本的考え方が必ずしも十分に整理されていなかったことから、行政改革の目的や効果が分かりにくいものとなっているのではないかと考えるに至った。
そこで、行政改革の抜本的な推進に資する観点から、行政部門と民間部門の活動領域を整理するための判断基準を策定し、それを政府の共有財産とすることが必要不可欠であるとの認識のもと、委員会は、内部組織として、平成8年3月18日、官民活動分担小委員会を設置し、行政の活動領域やその関与の在り方を再整理するための基準について専門的に検討することとなった。
イ 活動状況とその成果
官民活動分担小委員会は、平成8年末までに31回にわたり会議を開催し、その間、7月24日に、それまでの会議における委員・参与の主要な意見を取りまとめた「論点整理」を公表して、広く各界に意見を求めた後、10省庁及び1民間団体との間で、行政関与の在り方について討議を実施の上、行政全般を対象として官民活動の分担の在り方について検討を進め、12月11日に、報告書を取りまとめ、同日、委員会は同報告書を受け取った。
委員会は、官民活動分担小委員会から提出された報告書を検討の上、12月16日に、「行政関与の在り方に関する基準」(以下「判断基準」という。)と題する報告書を意見として内閣総理大臣に提出した。政府は、12月25日に、「行政改革プログラム」において、「各省庁がその行政活動を見直し、または新規施策を講ずるに当たっては、『行政関与の在り方に関する基準』を最大限に尊重し、その判断基準を十分に活用する」ことを閣議決定した。
行政部門と民間部門の活動領域については、これまでは個別事例や事業別に考え方が示されるにとどまっていたが、今回、策定した判断基準は、行政全般を対象とした統一的・汎用的基準となっており、行政改革の推進に向けての基準・理念を示すものであると確信している。
なお、判断基準については、英訳の上、広く諸外国にも紹介し、英国を始めとして各国でも高い評価を得た。
(2) 平成9年の活動
ア 行政改革を巡る動きと官民活動分担小委員会の活動方針の決定
官民活動分担小委員会では、2年目の活動として、現行の行政サービスを個別具体的に取り上げて、策定した判断基準を適用することも視野に入れていたが、昨年11月に行政改革会議が設置され、事務事業のアウトソーシングを含む国の行政機関の再編及び統合について検討を行うに当たり、判断基準を出発点として活用するとの考えが示される一方、与党においても特殊法人改革に取り組むなど、各方面で行政のスリム化に向けて具体的な活動が開始された。このように、政府全体による行政改革の取り組みが大きく前進した環境も踏まえ、
ヌ 政府・与党における行政改革関連の審議機関との連携を図りつつ、
ネ 委員会の活動の最終年にふさわしく、かつ、行政改革全体の推進に真に資する重要な課題を取り上げるとともに、
ノ その際、委員会が策定した判断基準を活用する
という観点から取り組むべき課題を検討した。その結果、平成9年2月26日に、本年1年間の活動方針として、
ヌ 平成10年度予算に向けて各省庁から示される施策の見直し、または新規の施策に対する判断基準の適用の仕方の監視・検証
ネ 評価の方法など判断基準の適用を実効あるものとする仕組みについての検討
ノ 判断基準を補強するという観点から、「行政の関与の仕方に関する基準」の中で示している別表についての追加的な検討
ハ その他、必要に応じた監視活動
の4つの課題を決定の上、公表した。
夏までの5カ月間はノの検討に専念し、平成10年度予算の概算要求が行われる9月以降、ヌの監視・検証を実施し、その結果も踏まえ、ネの検討に着手するとの方針で臨むこととした。
なお、ハについては、行政の各方面で行われている種々の検討に対して適宜適切に監視活動を行うという意思表示である。
イ 夏までの活動状況―制度設計に関する中間取りまとめ
官民活動分担小委員会では、今年の活動期間の前半に当たる7月までの5カ月間は、上述した活動方針のうちのノとして、行政の関与の仕方に関する基準を補強する観点から、判断基準で示した第3領域の活動を行う「行政機関以外の行政主体の機関」を中心に、事業活動の定期的な見直しが実施されるようなダイナミックな仕組みや、事業の特性に応じた行政関与の仕方や組織の在り方の理念型(制度設計)について19回にわたり検討した。その結果、7月29日に、検討結果を中間的にまとめた「行政関与の仕方に関する制度設計(中間取りまとめ)」を公表した。
その後、8月には、各省庁に対して、制度設計に関する中間取りまとめについての意見を照会し、特殊法人等の8機関を加えた15省庁から回答が寄せられた。
ウ 秋以降の活動状況
官民活動分担小委員会では、制度設計に関する中間取りまとめに先立ち、7月8日に内閣総理大臣及び大蔵大臣から平成10年度予算の概算要求の方針が示されたことを受け、各省庁における判断基準の活用を促す観点から、7月11日に、「8月末の概算要求に向けて、・・・施策の見直し、新規の施策を要求するに当たっては、判断基準を十分に活用されたい」との小委員長談話を発表した。
これを受け、前述した2月26日の「今後の活動方針について」のうち最初の課題ヌに示されているとおり、「平成10年度予算に向けて各省庁から示される施策の見直し、または新規の施策に対する判断基準の適用の仕方」を監視・検証するため、8月7日に全省庁に対して平成10年度予算の概算要求に盛り込んだ施策の見直しや新規の施策に対する判断基準の活用状況についての報告を求めた上、9月30日には、各省庁からの回答を取りまとめ、公表するとともに、各省庁の取組姿勢に対する評価を加えた座長談話を発表した。
さらには、これと相前後する形で、9月16日に、大蔵省及び総務庁から平成10年度予算の概算要求及び機構・定員等の要求の概要についてのヒアリングを行い、その席上、「昨年12月25日の閣議決定を踏まえ、各省庁から示された平成10年度予算の概算要求等を査定するに当たっては、判断基準を十分に活用されたい。その際、施策の見直しや新規施策に限らず、施策の継続についても判断基準を活用されたい」旨を要望するとともに、この点について座長談話を発表した。なお、ヒアリングの際、両省庁からは、査定に当たり判断基準も参考にする旨の回答を得た。
その後、概算要求等において各省庁から示された施策の見直しや新規の施策に対する判断基準の適用の仕方を検証することによって判断基準の活用を促すという観点から、各省庁から寄せられた報告を精査するとともに、10月15日には公共事業における「便益と費用の総合評価」を中心に農林水産省・運輸省・建設省の3省と一堂に会して意見交換し、また、10月21日には判断基準を活用するための工夫を探るという観点から警察庁・環境庁・法務省の3省庁と個別に意見交換を行った。
10月21日には、上記6省庁との意見交換の結果を踏まえ、小委員長談話を発表し、各省庁が今回の意見交換を参考にしつつ判断基準を積極的に活用すること、並びに、その活用状況を何らかの形で絶えず監視することが重要であることを、これら6省庁のみならず、他の省庁、さらには国民に広く訴えた。なお、これに合わせ、各省庁における判断基準の活用状況に関する調査結果を公表した。
2 判断基準の重要性とその活用の促進
(1) 判断基準に示した基本原則に立ち返った検討の重要性
戦後50年が経ち、いまや我が国は、欧米先進諸国へのキャッチ・アップから世界のトップレベルの経済力を備えたフロント・ランナーになるとともに、国際化や国民ニーズの多様化が進むなど社会経済情勢は大きく変化したことに伴い、民間の活動も見直しが必要となっている。他方、行政の活動においても、これまで行政が持っていた情報の優位性がすでに低下したにもかかわらず、その関与が過剰なため高物価・高コスト体質を招来したり、自己責任原則を歪め市場原理の働きを阻害するなど種々の問題点が指摘されている。これらの問題点を解決し、これからの不確実性の高い時代に対応していくためには、行政の関与を抜本的に見直すことが急務となっている。
このような認識のもと、委員会は、前述のとおり、平成8年12月に判断基準を取りまとめた。各省庁を始め行政活動を行っている各機関は、判断基準を尊重し、その判断基準を活用することが求められている。
その際、判断基準に示した3つの基本原則、すなわち、
ヌ 「民間でできるものは民間に委ねる。」という考え方に基づき、行政の活動を必要最小限にとどめる。
ネ 「国民本位の効率的な行政」を実現するために、行政サービスの需要者たる国民が必要とする行政を最小の費用で行う。
ノ 行政の関与が必要な場合、行政活動を行っている各機関は国民に対する「説明責任(アカウンタビリティ)」を果たさなければならない。
に基づき、根本に遡って見直しをする必要がある。
なお、行政がその説明責任を果たすに当たっては、
ヌ 社会的便益と社会的費用を総合的に評価し、費用が便益を上回るときには行政が関与しないという原則を守らなければならないこと
ネ また、社会的便益には、その受益が特定の個人や地域などに帰属する部分と社会全体に及ぶ部分(外部効果によってスピル・オーバーする部分)があることから、受益の帰属先を十分に勘案し、受益者負担の原則の徹底を図る必要があること
特に、特定の個人に帰属する便益が社会的費用を上回る場合には、原則として当該事業の実施を民間に任せる必要があり、どうしても行政が関与する必要がある場合には、その関与によって実現される社会全体に及ぶ社会的便益(スピル・オーバー部分)が行政コストを上回っていることや最も適切な手段であることを明らかにするなど当該関与が必要であることを説明しなければならないこと
を、ここで改めて、強調したい。
(2) 行政関与の仕方に関する制度設計
ア 最終的な取りまとめとその成果
前述したとおり、官民活動分担小委員会では、「行政関与の仕方に関する制度設計」について7月29日に中間的に取りまとめ、8月には各省庁に対して意見を照会したところ、ほとんどの省庁から回答が寄せられた。
委員会は、これらの意見を参考にしつつ、若干の修正を加えた上で、別途、「行政関与の仕方に関する制度設計」を最終的に取りまとめた。
この内容については、行政改革会議においても、独立行政法人の制度設計に当たり、委員会の考え方と基本的に同じ方向で検討されており、この点を大変評価する。特に、委員会では、主務大臣及び当該法人から独立した形での監視機能の充実の重要性を強調しているが、同会議においても、主務省庁から独立した「第三者的、横断的な評価機関」として総務省の下に独立行政法人評価委員会を創設することとされている。
この他、資金運用審議会懇談会がまとめた「財政投融資の抜本的改革について」(11月27日)には、事業の特性に応じた資金調達の在り方、財投機関債発行法人等についての破綻処理の仕組みの法的整備の必要性、コスト分析手法の導入など、また、自民党・行政改革推進本部・財政改革委員会がまとめた「財政投融資の改革について」(11月21日)においても、財投機関等を横断的に常時監視し、業務改善勧告を行う評価監視委員会、コスト分析手法の導入、財投機関債発行法人等についての破綻処理の仕組みの法的整備の必要性など、委員会が示した考え方が相当程度取り入れられており、政府等において、基準の具体化が着々と図られている。
イ 今後の活用に向けて
委員会は、今回、「行政関与の仕方に関する制度設計」を取りまとめるに当たり、次の点を改めて強調したい。
すなわち、判断基準で示した「第3領域の活動を行う行政機関以外の行政主体の機関」について、その制度設計を行うに当たっては、判断基準の中の3つの基本原則のもと、市場規律がより一層発揮できるようにすることが重要である。そのためには、
ヌ 市場規律がより働きやすい組織形態への移行を推進し、また、そのような移行へのインセンティブを与えることが重要であり、
ネ また、効率的な経営が可能となるように、個々の組織運営についてもその自主性を高め、行動規制による事前チェックの仕組みから業績評価に基づく成果の事後的チェックの仕組みへの転換を図ることも重要である。
ノ 特に、その運営に際してモラルハザード(規律の喪失)が発生しないような制度をあらかじめ仕組むとともに、事後的チェックの充実に資する観点からの情報公開も推し進めることが必要である。
ハ これと同時に、行政部内でも、複線的な監視体制を構築し、チェック・アンド・バランスが働くように工夫するとともに、社会経済情勢は絶えず変化していることから、制度設計についても固定的に考えず、絶えず見直しを行うことが必要である。
ヒ 上述した観点から、組織形態の見直しを含む業務の抜本的な見直しを定期的(原則として5年間程度毎)に繰り返すことにより、第3領域から第2領域、第1領域へと移行(廃止・民営化など)し、たとえ第3領域の活動にとどまるとしても、潜在的な競争を含む広い意味での競争の導入を図ったり、その成果を有効かつ客観的に評価できるように工夫するなど市場規律のより働きやすい組織形態へと移行していくダイナミックな仕組みを構築する必要がある。同時に、行政が関与する事業活動を、特に市場規律の働きやすさに着目して類型化し、その分類に応じて行政関与の度合いに程度の差を設けて、市場規律を可能な限り活用した行政関与の仕方や組織とするとともに、その内容を定期的に見直していくことも必要である。
今後、政府において、特殊法人等の見直しや独立行政法人の制度設計の具体的な適用などに際しては、上述した考え方を踏まえ、説明資料として別途、取りまとめた「行政関与の仕方に関する制度設計」を参考にされたい。
(3) 平成10年度予算の概算要求における判断基準の活用状況
ア 判断基準の活用状況の監視・検証に当たって
昨年、委員会が判断基準を策定したところ、各方面から、行政がその説明責任を果たす際の基準が示され、行政のスリム化に理念を与えるものであるとの評価を受ける一方、その内容が難解であり、その活用の仕方が不明であるとの指摘を受けた。委員会及び官民活動分担小委員会は、これらの意見も踏まえ、判断基準を策定した以上、その個別の行政活動への適用を確かなものとすることが、我々に課せられた責務であるとの認識のもと、平成10年度予算に向けて各省庁が施策を見直したり、新規施策を講ずるに当たって、判断基準をどのように活用したかについて監視・検証することとし、判断基準の活用を促すこととした。
そのため、上記1(2) ウに述べたとおり、8月7日に、各省庁に対して、平成10年度予算の概算要求に盛り込む施策の見直し、また新規の施策に対する判断基準の活用状況について、特に数量的評価の実施状況を含む「便益と費用の総合評価」への取組状況に重点を置いて報告を求めた。
イ 各省庁における判断基準の活用状況とその評価
(ア) 各省庁から寄せられた報告の分析・評価
各省庁から寄せられた報告をみると、
ヌ 全ての省庁から「判断基準を活用する」あるいは「今後、活用するつもりである」との回答が寄せられており、この点を評価するとともに、各省庁に対して判断基準の活用を促すという当初の目的は達成されたものと考える。
ネ ただし、その詳細を見ると、判断基準の活用に対する取組姿勢には濃淡があり、例えば、警察庁、防衛庁、法務省、外務省などからは、当該省庁の業務が、判断基準のゥイに示す「公共財的性格を持つ財・サービスの供給」に該当するという理由から、残念ながら、「当該省庁の施策は判断基準、特に便益と費用の総合評価が困難である」との回答が寄せられている。しかしながら、これらの省庁の業務についても、判断基準に従えば、「供給量が過大にならないようにするとともに、費用の最小化を図る」ことが必要であり、定性的分析も含めた便益と費用の総合評価を行うことにより、この点をより一層明らかにするなど、それぞれの業務の特性に応じた取り組みが求められるものである。
ノ また、判断基準を活用している(するつもりである)としている省庁の回答の中にも、判断基準の適用の仕方が必ずしも明らかでないと思われるものがある。例えば、大蔵省における金融行政については、まさに判断基準のゥ(1)
bに示す「市場の整備」に該当するものであり、大蔵省からの回答にもあるとおり、その業務範囲を限定的にするために、判断基準を十分に活用する必要がある。
(イ) 省庁との意見交換の結果とその評価
官民活動分担小委員会では、各省庁から寄せられた回答を精査するとともに、便益と費用の総合評価を始め判断基準を積極的に活用しているとの回答が寄せられた省庁、逆に便益と費用の総合評価、特に数量的評価が困難としている省庁のうち6省庁を選び、判断基準の活用を促すという観点から、10月15日・21日の両日にわたり、意見交換を行った。
委員会は、上記6省庁と官民活動分担小委員会との間の意見交換を通じて、これらの省庁における判断基準についての理解が深められ、一定の成果は得られたと確信するが、今後の課題も少なからず存在することが判明した。
例えば、公共事業関係省(農林水産省・運輸省・建設省)との意見交換では、各省とも、当該省の施策について、「便益と費用の総合評価」を行い、それを広く公表することの必要性を認識し、そのための取り組みが始められるなど改善のための努力がなされており、この点については評価できる。しかし、実施のタイムスケジュールにばらつきが見られ、どの時点で実施されるかが明確でない事業分野も存在している他、これまでは施策毎に分析・評価される傾向にあり、省内、さらには省庁間での連携が不充分であると考える。特に、
ヌ 評価結果を始め、評価の前提や作業過程を含む情報公開の一層の推進を図る必要がある。特に当該省庁以外の機関等が評価結果を検証できるだけのデータを公表する必要がある。
ネ 「便益と費用の総合評価」のための事業特性の多様性を踏まえた統一的なガイドラインの整備に向けた検討作業を始めとする実施スケジュールを一層早める必要がある。その際、そのタイムスケジュールを明確にする必要がある。
ノ 費用便益分析等の評価手法はあくまで道具であり、それを活用する方策や、事業途中・事後を含めた評価結果を反映させる仕組みに結び付けることが重要である。例えば、費用便益分析に際して便益を算定するとしても、その受益の対象が特定の個人や地域などに帰属するものかどうかを峻別し、受益者負担原則の徹底に結び付ける必要がある。
など改善の余地がみられる。
また、公共事業関係以外の省庁(警察庁、環境庁、法務省)との意見交換では、当初、各省庁から寄せられた回答では、「便益と費用の総合評価」、特にその数量的評価は困難とされていたものの、判断基準を活用する観点から、例えば、目標の達成度合いや政策効果を数量的に評価することを試みたり、規制の社会的費用を試算するなど、それぞれ業務の特性を踏まえた取り組みを行っている旨の説明があり、委員会としてはこうした取り組みについては評価する。しかしながら、
ヌ これらの取り組みはまだその緒についたばかりで今後の推移を見守る必要があるほか、分析・評価の手法などに改善の余地が見られる。また、情報の公開も充分であるとは言えず、今後とも一層、その公開に努める必要がある。
ネ 判断基準にある「民間でできるものは民間に委ねる」という原則に立って、民間委託を一層進める工夫を行うとともに、委託に際しては透明性の確保が極めて重要である。また、「国民が必要とするサービスを最小の費用で行う」という原則に立って、市場メカニズムを用いた手法を工夫する。
など一層の工夫が必要である。
このように、これら省庁においては、便益と費用の総合評価を始め判断基準の活用が未だ不充分な面があることから、この点を深く認識し、今後、それぞれの業務の特性に応じて判断基準を一層活用することを期待するものである。また、今回は、平成10年度予算の概算要求を対象に、各省庁から示された判断基準の活用状況を検証したが、予算に関連しない施策についても、判断基準を積極的に活用されたい。
上記6省庁以外の省庁については、今回は意見交換を行わなかったものの、6省庁との意見交換の結果を参考にして、これら省庁にも増して判断基準を積極的に活用されることを大いに期待する。
ウ 判断基準の活用状況を監視・検証する仕組みの重要性
官民活動分担小委員会では、上述したとおり、幾つかの省庁を選定の上、判断基準の適用の仕方について意見交換を行うことにより、判断基準に対する理解が深められ、その活用が促進されるように努めた。
その際、今回の各省庁との意見交換を通じて、判断基準の活用を確かなものとするためには、各省庁による積極的な取り組みに加え、その監視・検証の重要性を改めて認識した。しかしながら、時間等との関係から、官民活動分担小委員会が、引き続き個々の行政活動への判断基準の適用について各省庁と直接に意見交換を行うには、物理的にも限界があった。
また、社会経済情勢や国民ニーズは絶えず変化しており、それに対応するため、判断基準を活用しつつ、継続的に行政活動を見直していく必要もある。
従って、委員会としては、判断基準の適用を実効あるものとするため、今回の検証結果も踏まえ、政府における評価・監視の仕組みを示すことが必要であると痛感した。
(4) 求められる評価・監視の仕組み
ア 委員会の問題意識と現在の問題点
(ア) 委員会の問題意識
現在、民間部門においても、外部監査や社外監査役の強化など株主のためにチェック・アンド・バランスが働き、コーポレート・ガバナンスが効く評価・監視の仕組みを構築することが求められている。こうした問題意識は民間部門に限られたものではなく、行政部門においても必要である。
行政部門における評価・監視の仕組みについては、判断基準の3つの基本原則に従い、
ヌ 民間でできるものは民間に委ね、行政関与を必要最小限に抑える。
ネ 行政が関与するとしても、便益と費用を総合的に評価して、行政サービスの需要者たる国民のために、より効率的で質の高いサービスを提供する。
ノ 透明性を高めることにより、行政がその説明責任を果たす。
という国民のための行政を求める評価・監視活動の実現という視点から検討することが重要である。
そのためには、行政活動全般を対象に判断基準の活用を促して、その適用を実効あるものとすること、行政活動の実態が国民に明らかになるような仕組みを構築すること、さらに、行政関与の在り方を国民の視点に立って絶えず見直すための評価・監視の仕組みを構築することが必要である。
このような認識のもと、委員会は、「行政関与の在り方に関する基準(判断基準)」、「行政関与の仕方に関する制度設計」の策定というこれまでの活動の締めくくりとして、平成10年度予算の概算要求における判断基準の活用状況の検証結果も踏まえ、政府における評価・監視の在り方とその仕組みについて我々の考え方を示すこととした。
(イ) 現在の問題点
上述した問題意識のもと、現在の評価・監視の仕組みを改めて見てみると、行政がその活動についての説明責任を十分に果すことを促すような仕組みとなっているとは必ずしも言えない状況にある。
具体的には、次に示すような問題点が挙げられよう。
a 全般的な問題点
行政の諸活動の状況を国民の前にあるがままに明らかにし、国民一人一人がこれを吟味・評価できるような仕組みを構築するために、情報公開を進めることが重要である。行政手続法が制定されることにより行政運営の透明性の向上が図られ、また、次期通常国会に提出される情報公開法案によって、情報公開のための環境整備は大幅に進むものと思われる。従って、情報公開法案の早期成立を期待する。しかしながら、行政外部の機関等が、行政部内の機関とは独立に、しかも(守秘義務などに関わる点を除けば)同一の条件で評価・監視を行えるようにするためには、行政文書に対し国民一人一人がその開示を請求することのできる制度(開示請求権制度)を中核とする情報公開法制の確立だけでなく、施策の立案・決定やその実施状況、行政活動の事後的評価などについて、その手続きに関するルールを明確にし、行政が保有すべき情報の範囲を国民に明らかにしておくことが必要である。現状では、このようなルールが明確になっていないこともあり、行政による国民への説明責任は十分に果たされておらず、その活動の透明性が失われているのではないかという懸念がある。従って、ここで述べたような観点から行政が積極的にその説明責任を果たすための環境整備を引き続き推進する必要がある。
b 省庁横断的な評価・監視機関の問題点
現行の省庁横断的な評価・監視機関においては、近年、適法に処理されているかという合規性の側面に加え、個々の事業に着目した経済性・効率性、さらには事業全体の効果に着目した有効性などの側面からの評価も求められるようになってきている。
現在、これらの評価・監視機関において、こうした新たな側面からの評価・監視についても積極的に取り組んでおり、一定の成果は見られているものの、
ヌ 個々の事案を地道に調査する実証的分析に基づく評価・監視が中心となっており、事業全体の廃止・民営化など組織形態の抜本的見直しを含めた大所高所からの大胆な提言が難しい状況にあること
ネ 従来、費用便益分析を基礎とした事前評価がルール化されていないなど客観的指標に基づく評価のための環境が整備されていないこと
ノ 委員会が策定した判断基準のような評価・監視に資するための明確な基準が定められていないこと
から、行政にその説明責任の遂行を促すという視点に立った国民が求めている評価・監視にまでは必ずしも踏み込めていない。
c 各省庁における問題点
上記の問題点に加え、これまでの評価・監視の仕組みの問題点としては、主務省庁、その中でも施策を決定する部局による事前評価が中心であり、評価の客観性・透明性が十分に担保されているとは言い難く、内部の評価・監視機能も充分に育っていない状況であることが挙げられる。
また、情報が主務省庁等に集中している上、本来、民間以上の情報公開が求められる行政部門において、例えば、公的会計システムなどの財務関連情報に関する条件整備についても、国民の求める水準に達しているとは言い難い状況にあるなど、当該省庁等からの情報の公開も不充分である。
そのことが、外部機関による評価・監視の阻害要因ともなっている。また、評価・監視に関する省庁間の連携も充分に図られていないこともあり、評価・監視に対する客観性と信頼性の基礎となるチェック・アンド・バランスの仕組みに欠けている。
イ 基本的視点
上述した問題意識のもと、評価・監視の仕組みを検討するに当たっては、判断基準に示した3つの基本原則に基づく視点に加え、評価・監視のための基準・手法やガイドラインを含む「行政活動に規律を求めるプロセスなどの整備を行う条件整備的側面」と「実際に行政活動を評価・監視する実施的側面」に大別して検討するという視点が重要である。
これまでの評価・監視の仕組みは、後者の実施的側面という視点から構築され、個々の行政運営を経常的かつ実証的に分析し、その改善を求めるという手法が採られてきた。このような評価・監視の仕組みは依然として有効であるものの、これからの評価・監視については、省庁横断的な評価・監視機関を含む現行の仕組みを見直すとともに、条件整備的側面という新たな視点に立った評価・監視の仕組みを導入することにより両者を有機的かつ緊密に働かせることが極めて重要である。
条件整備的側面に立った新たな評価・監視の仕組みとしては、行政部内の手続きに規律を求め、国民への説明責任を果たすために、施策の立案・決定やその実施状況、行政活動の事後的評価などについて、その手続きに関する政府としての統一的なルールを定め、これにより行政が保有し、また、国民に公開すべき情報の範囲を国民に明らかにして、行政活動に関する情報公開を一層推進し、国民の視点からチェックできるような仕組みを構築することが重要である。そのため、例えば、
ヌ 行政が国民に対しての説明責任を果たす観点から、その施策の立案・決定、実施、事後的評価・見直しという行政活動の過程全体の透明化を促すための一連の手続きをルール化すること。その際、行政による施策の実施に対して、事前・事後に加え、時の経過に伴う社会経済情勢等の変化に対応する観点から事業途中でも一定期間毎に評価し、国民に対して説明責任を果たすための一連の手続きをルール化するとともに、そのルールが守られているかどうかなどその実施状況について監視を行うこと
ネ 上記ヌに示した一連の手続きのルール化を実現するために、まず、公共事業に関して、箇所採択など当該事業の決定・実施に当たり、事前・事業途中・事後における便益と費用の総合評価(特に、費用便益分析などの数量的評価)及びその公表の義務付け、立案・決定に際しての当該事業を実施しないというゼロ・オプションを含む代替案の検討や国民からの意見聴取(公聴会等)の実施、事業の実施主体による一層の情報公開、評価結果を踏まえた見直しなどの一連の手続きをルール化するとともに、そのルールの実施状況について監視すること。さらには、他の分野についても、順次、手続きのルール化を進め、監視すること
ノ 上述の他、便益と費用の総合評価の推進の一環として、費用便益分析や数値目標の設定などの客観的指標に基づく評価を定着させる観点から、事業特性の多様性を踏まえ、評価・分析するに当たっての政府としての統一的なガイドラインを策定すること
が必要である。なお、これらのルールは行政活動全般を対象とし、また、立法・司法を含む行政・監視活動との関わりも大きいことから、その策定に当たっては、客観的・中立的な視点や多角的あるいは専門的な視点に加え、各省庁から独立した省庁横断的な視点から検討できる仕組みを構築する必要がある。
ウ 求められる評価・監視を実現するために必要な機能・方策
上記視点に立ち、これからの評価・監視の仕組みを望ましいものとするためには、次に示す機能や方策を検討する必要がある。
(ア) 多角的視点に立った評価・監視
評価・監視については、多様化する国民ニーズに対応する観点からも、一面的・画一的なものではなく、多角的に行う必要がある。その際、次に示す視点について、特に留意する必要がある。
ヌ 政府における判断基準の活用を監視・検証し、その促進を図るという視点
ネ 事前、事後に加え、時の経過に伴う社会経済情勢等の変化に対応する観点から、事業途中でも一定期間毎に実施するなど絶えずチェックする視点
ノ 行政部内の組織形態の在り方を含む行政全般の在り方について、有識者や民間人などの行政外部の目を通じるなど国民の視点に立って、定期的に見直しを行うというダイナミックな視点
ハ 合規性からの監査より経済性・効率性・有効性などを含めた総合的評価を重視し、その際、行政が関与しないというゼロ・オプションを含む代替案の検討など事業の妥当性にも焦点を当てるという視点
ヒ 複数の省庁にまたがる仕組みや問題点を取り上げるなど省庁横断的な視点
(イ) 複線的な体制
上記のような多角的な視点に立って評価・監視するに当たっては、その仕組みとしては複線的な体制とするとともに、それぞれの評価・監視機関などの間で相互に情報を交換するなど連携を強化する必要がある。その場合、評価・監視の有効性を高める観点から、施策を立案・実施している各省庁による自己評価機能を充実させ、内部監視機能が一層働くように仕組むことが重要である。
なお、評価・監視の体制を複線的に仕組む場合、一見、直接的な行政コストは増大し、行政のスリム化という行政改革の流れに反するように考えられるものの、評価・監視は多角的な視点から行い、チェック・アンド・バランスの仕組みを作る必要がある上、結果的には評価・監視が行政の効率化に役立つことから、それらをトータルな視点に立って判断すべきである。
(ウ) 便益と費用の総合評価の推進
まず、便益と費用の総合評価を推進し、その定着を図ることが重要である。その場合、定性的な評価も考えられるが、可能な限り数量的評価など客観的指標に基づく評価を行う必要がある。
比較的数量評価になじみやすい公共事業分野においては、費用便益分析などを用いた便益と費用の総合評価とその情報公開のための手続きに関して、政府としての統一ルールを早急に整備することが必要である。また、公共事業以外の分野にも、その適用範囲を広げていく(例えば、規制関係における規制インパクト分析)必要がある。
また、費用便益分析が難しい事業分野では、数値目標の設定やコスト分析の導入、市場を通じた価格形成を利用することによる評価方法の工夫など可能な限り数量化された客観的指標に基づく評価手法を導入し、それでも数量的評価が困難な場合には少なくとも定性的な評価を実施した上で、その評価結果を公表することが重要である。
(エ) 評価結果の施策への反映
評価・監視を実施するだけでなく、その結果が当該事業活動に反映され、見直しに結びつくことが必要であり、そのための方策を仕組まなければならない。
(オ) 情報公開の一層の推進
行政が国民に対する説明責任を果たす観点から、情報公開の一層の推進を図る必要がある。特に、事業的活動を行っている分野においては、民間部門との比較が可能となるように企業会計原則を採用するほか、子会社・関連会社の対象範囲を広げ、縦方向にも深化した形での連結情報やセグメント情報の充実など財務関連情報を民間以上に公開することが求められている。
また、費用と便益の総合評価を含めた評価・監視の結果に加えて、その過程を情報公開する必要がある。その際、情報の公開性を高める観点から、個人情報など守秘義務に関わる情報についても加工を施すなどの方策を講じて、情報の公開を一層推進し、行政の外部にある機関等による評価・検証を可能とする環境の整備を図る必要がある。
エ 評価・監視機関の組織としての在り方
上記イ、ウに示した視点に立って、これからの政府における評価・監視の仕組みとして望ましいものを構築するためには、次に示す点に留意しつつ、評価・監視機関の在り方を検討する必要がある。
ヌ これからの評価・監視の仕組みを構築するに当たっては、その独立性・実効性が確保され、中立的な評価が行われることを担保する必要がある。また、多角的な視点から評価・監視が行われるようにするため、その人材の確保に当たっては、学識経験者や民間人を含め幅広く求める必要がある。
ネ 具体的な評価・監視機関を検討するに際しては、施策を立案・実施している各省庁との関係に留意しつつ、その権限と責任を明確化する必要がある。
その際、適切な評価・監視が行われるようにするための権限として、当該評価・監視機関に、勧告、改善要求の他、情報の収集権限(特に、守秘義務に関わる情報でも、必要な場合にはそれを公開せずに精査する権限)などの権限を持たせることが求められる。
ノ 省庁横断的な評価・監視の充実や、事前チェックから事後的評価・監視への転換という観点から、人的配置を見直し、省庁横断的あるいは事後的な評価・監視機能を担う機関へ量的・質的に人材を再配置することが必要である。それとともに、キャリア・パスや報酬を通じて担当部局・担当職員が報われる仕組みを導入し、評価・監視活動が適切に行われるようなインセンティブを与えることが必要である。なお、各省庁内部での評価・監視機能の充実という観点から、各省庁においても人的配置を見直す必要がある。
ハ 行政活動に対する評価・監視を有効かつ実効性があるものとするためには、行政部内で有機的かつ緊密なる評価・監視の仕組みを構築するだけでなく、行政活動を監視すべき機能を担っている立法・司法との連携を今以上に強化する必要がある。
(1) 委員会活動を通じて我々が求めたもの
委員会は、行政改革に資するという観点から、ヌ行政の活動領域やその関与の在り方を整理するための基準(判断基準)、ネ事業活動の特性に応じた行政関与の仕方や組織の在り方の理念型(制度設計)に関する基準、ノ行政関与の在り方を絶えず見直すための評価・監視の仕組みに関する基準、という汎用的・普遍的な基準を示し、行政部門にその活動を実施するに当たっての規律を求めた。
これらの基準は、前述したとおり、行政改革会議や資金運用審議会懇談会、自民党・行政改革推進本部・財政改革委員会において、速やかにその具体化が図られており、まさにこれは「基準作りとその具体化という作業の連携」を示すものとして委員会が期待したところである。今後とも、政府、特に各省庁においては、これらの事例も参考にしつつ、委員会が示した基準の具体化を図ることを要望する。
(2) 残された課題(行政改革を推進するに当たって今後に託すこと)
委員会は、上述したとおり、この2年の間、各種基準を策定したものの、行政部門が規律に従って活動し、行政改革が適切に達成されるには、未だ不充分であると考える。そこで、判断基準の活用状況を引き続き評価・監視するとともに、判断基準の具体的活用を推進するための環境整備が必要である。
そのためには、まず、今後、政府において、委員会が策定した基準を個々の行政活動に具体的に活用する必要がある。その際、行政改革の当面の課題として、2001年に移行を開始することを目指すとされている中央省庁再編までにも、判断基準を十分に活用し、行政のスリム化に向け、民営化・廃止など組織形態の見直しを含む抜本的な見直し、特に事務事業のアウトソーシングについて検討することが重要である。それとともに、その検討状況を各省庁から独立して省庁横断的に厳しく監視し、場合によっては再度の見直しを求めることができる評価・監視の仕組みが必要である。
また、2(4)イに示したとおり、今後、行政がその施策を決定・実施するに際して、国民の視点に立ち、アカウンタビリティを確保するため、その活動全般について、手続きを規定するルールを早急に設定し、それを監視することが極めて重要であり、まず、公共事業における諸手続きに関して政府としての統一ルールを整備し、順次、他の分野における手続きのルール化を進める必要がある。そのため、「W
今後の行政改革の推進方策」で設置を指摘する機関において、客観的・中立的な視点や多角的あるいは専門的な視点に立った政府としての統一的なルールの策定に向けた検討を早急に開始する必要がある。
(3) 立法・司法・地方・国民への要望
ア 立法・司法への要望
単に行政部内での評価・監視の仕組みが有効に機能するように構築するだけでは十分ではなく、立法・司法を含めた三権による相互チェックが有効に機能することが重要である。
ヌ 立法には、その本来の機能である行政活動を評価・監視する機能を充実させることを期待する。
ネ また、司法に対しても、国民のニーズに適切に対処し、行政と民間の間のトラブルの迅速な解決を含む紛争処理などを通じた行政活動の監視機能を充実させることを期待する。
イ 地方への要望
評価・監視が必要なのは、国の行政活動にとどまるものではなく、地方における行政活動についても、住民のためという視点に立ったチェック機能が働くことが重要であり、委員会が示した各種の基準を参考としつつ、行政改革を推進することを期待する。
ウ 国民への要望
上記にも増して、国民自身が、行政部門の評価・監視を自らの問題であることを十分に認識し、行政の外から絶えずチェックするという積極的な姿勢を示すことが重要である。