17 需給調整規制
○ 需給調整規制の見直しの狙い
規制には、経済的規制と社会的規制があるとされる。典型的な経済的規制とは、許可制または免許制の下で、ある産業における参入、価格、退出等を制限する規制である。その中でも問題が多いのが、参入にあたっての判断基準として、その業界における需要と供給の関係を行政が判断して、供給が多すぎると考えるときには新規の参入等を認めなくてもよいとする規制である。これが「需給調整規制」と呼ばれるもので、財やサービスの需給状況を市場の判断に任せず、行政がバランスを図ることになる。需給調整規制は、往々にして、行政の裁量により、既存の業界の安定を守る方向に用いられることや、需給状況の判断を名目に他の目的で申請者を排除するために用いられることが問題となる。
行政改革の流れの中で、経済的規制は、原則廃止の方向で見直すこととされている。行政の裁量についても行政手続法を厳格に適用し、残った規制について明確な基準で運用する必要がある。
現在残っている規制については、「それは社会的規制だ」という主張がしばしば行われている。確かに、経済的規制であると社会的規制であるとを問わず、規制はもともと何らかの社会的な目的を達成するため行われるが、その場合でも、@実質的に需給調整として機能して新規参入の障害となっていないか、A社会的目的の達成にとって有効でなくなっているのではないか、B別の手法で社会的目的は達成できるのではないか、という視点での見直しをしていく必要がある。
規制が作られたときの政策的目的がそれなりの意義を持っていたことは当然であるが、その後の変化により実際に競争を阻害するような弊害が出ているような場合には、その事実を直視し、需給調整規制を廃止することを含む何らかの弊害をなくすための手だてを講ずる必要がある。
○ 需給調整規制を巡るこれまでの議論
・「経済的規制は原則自由、例外規制。社会的規制は必要最小限に」の原則
政府は、従来より「規制緩和の推進に当たっては、(中略)経済的規制については、原則自由、規制は例外的な場合のみとし、かつ、社会的規制については、本来の政策目的に沿った必要最小限のものとする」(再改定計画)との基本的考え方を維持してきた。
経済的規制と社会的規制は、その区分が難しい場合があるが、いわゆる需給調整規制は経済的規制の代表例といわれる。その需給調整規制について、臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)の「国際化対応・国民生活重視の行政改革に関する第3次答申」(平成4年6月19日)において、次のような答申が行われている。
「競争的産業における需給調整の視点からの参入・設備規制については、原則として、10年以内のできるだけ早い時期に廃止の方向で検討する。」(第3部 2.公的規制の見直し(1))
上記答申の指摘の趣旨については、その後、累次の閣議決定において規制の見直し方針として確認されてきたところであり、再改定計画においては「競争的産業における需給調整の観点から行われている参入・設備規制等については、事業の内容・性格等を勘案しつつ、特別の場合を除き廃止の方向に向かうよう努める。」とされている。
委員会は、@需給判断を行政ではなく市場に任せるべきであるという原則を確立する、A経済的規制の中の典型的なものとしてまず廃止すべきである、という観点から、政府に対し電気通信、運輸等の個別分野の需給調整規制について見直しを促してきた。これらの委員会意見を受けて、政府は、電気通信分野及び運輸分野においては、現実に需給調整規制撤廃の方針を明らかにし、金融分野においてもいわゆるビッグ・バンの進捗によって、業種ごとの需給調整規制の廃止の方向に向けて取り組みが進められている。
○ 今後の取り組み
このような経緯にもかかわらず、現在に至るまで、政府による全体的な需給調整規制撤廃の取り組みは行われていない。
需給調整規制には明確な定義が存在しない。したがって、ある規制が需給調整規制であるか否かは、その規制の根拠となる法令の条文から需給調整的な運用が行われる可能性があるかどうかを判断し、さらに規制目的などを勘案した上で、実際に競争制限的な役割を果たしうるかどうかを検討する必要がある。
今回、委員会は、第3次行革審及び経済改革研究会(通称「平岩研究会」)などにおいて需給調整の観点から行われていると区分された規制を中心として取り上げ、@その規制が需給調整規制として機能しており弊害が生ずる可能性があるのではないか、A既に状況の変化等によって無用になっているのではないか、という観点から検討を行った。ただし、これらの規制については、所管省庁より当該規制は「需給調整規制でない」または「需給調整規制とも考えられるが別の目的を果たしている」との説明がなされているものもある。
検討に当たり、需給調整規制の可能性のある規制として取り上げた規制は、以下の特徴を持つと考えられる規制である。
〔今回取り上げた「需給調整規制」の範囲〕
@ 施策内容;需給調整を直接の目的とする規制はもちろん、「過当競争防止」、「過大な生産能力を防止」、「産業の均衡ある発展」等の表現によって市場における財・サービスの供給を調整・制限する結果をもたらす規制
A 手段 ;事業参入・開業規制、事業の休廃止・撤退規制、設備規制(新設・増改設)、製造・販売・輸出入規制、営業方法・範囲の規制、合併・営業の承継規制、人(従業員、役員)の資格規制等
B 規制形態;法令に基づくものの他、通達等行政指導によるものを含む
委員会は、需給調整規制と考えられる規制の抽出及び当該規制が需給調整規制であるか否かの検討にあたって、限られた時間の中で最大限の努力を行ってきたものの、今回の検討対象が、現在残っている全ての需給調整規制を網羅したものかどうかについては確証がない。したがって今後は、需給調整規制の網羅的リスト・アップ及び見直し作業の推進を行っていくべきである。
また、今回、需給規制と考えられる規制の審査内容を明らかにするため、行政手続法による許認可の審査基準の提示を求めたところ、明確な基準がないものや、たとえあっても申請者が事前に当否を判断することが可能な程度に具体的になっていないものが見受けられた。需給調整規制の透明性の向上を図るため、当該許認可の審査基準について、再度その徹底的な具体化を求める。特に、審査基準を具体化することが困難であることを理由に審査基準を作成していない場合は、行政手続法の趣旨に沿ったものと言えず、冒頭で述べた需給調整規制の弊害が生ずるおそれがある。
なお、論点公開(第6次)に掲出した規制の内、病院の開設許可の制限(病床規制)、大規模小売店営業届出、港湾運送事業の免許については、それぞれ医療・福祉、流通、運輸分野で需給調整について検討されており、また、論点公開(第6次)には含まれていない大学設置基準についても教育分野で検討がなされており、ここでは触れない。
【個別の条項についての認識】
今回、委員会が取り上げた規制のうち、次に挙げる規制は、需給調整規制であると考えられる。当該規制は、それぞれ固有の社会的意義を有すると主張されるが、方法として需給調整規制を使うことの有効性に疑問がある。これらについては、既存業界を保護する結果となる「規制」という方法でなく、別途目的の明確な方策によって、一層効率的に社会的法益を守ることとの観点から見直していく必要があると考えられる。
銀行の営業免許/酒類の製造免許/公衆浴場の営業許可/国内産糖製造事業者の指定製造施設の設置承認/酪農事業施設の設置承認/卸売業者の許可/前払式割賦販売業の許可、前払式特定取引業の許可、割賦購入あっせん業者の登録/小売市場開設許可/航空機の製造または修理の事業許可/石油精製業許可
一方、証券金融会社の営業免許、市町村以外の水道事業経営の認可、工業用水道事業の許可、電気事業の許可、一般ガス事業の許可、簡易ガス事業の許可、熱供給事業の許可は、需要に関して行政が判断を行うが、いずれも最低供給水準の確保や独占企業に対して需要家の保護を図るものであり、需給調整以外の目的に条項が使われていると認められる。しかし、当該条項を基として需給調整が行われる懸念があると考えられる。
個別の条項に関する委員会におけるこれまでの検討の概要は、以下の通りである。今後政府において、委員会の問題意識を踏まえ、各規制の趣旨について検討を行い、需給調整条項であるが社会的意義が希薄になっている規制については廃止するなど、累次の閣議決定及び再改定計画に沿って所要の措置を講ずることを強く求める。
(1) 銀行の営業免許
銀行法(昭和56年法律第59号)第4条第2項による銀行営業免許は、免許申請時に「財産的基礎の要件と業務遂行能力の要件を満たすもの」であることを要件として免許を与えるものとしている。しかしながら、第4条第2項第3号の「申請者による銀行の業務の開始が、当該銀行の業務が営まれる地域における資金の需給状況、銀行その他の金融機関の営業状況その他経済金融の状況に照らして、金融秩序を乱すおそれがない等適当なものであること」との条項は、免許申請者の状況とは別に、周囲の市場状況を判断して免許の可否を判断する需給調整条項とみられる。
当局は、同条項の趣旨は、単に参入者の適格要件だけを判断するのではなく、金融システム全体の安定を判断するためのものであり、既存業者の保護や参入制限などの需給調整を目的としたものではないとしているが、このような広範な自由裁量を許す条項の審査基準が不十分であることは、行政手続法の趣旨からも問題であると考える。
(2) 証券金融会社の営業免許
証券金融会社の設立について、証券取引法(昭和23年法律第25号)第156条の4(免許申請の審査)で「有価証券市場の状況等に照らし」という条項が免許基準の一つとなっている。この基準は、免許申請者が、各有価証券市場における信用取引の量等に適切に対応できる資金調達能力等を有することを求めた規定であるとされている。
同条項が供給能力を担保するためのものであるならば、同条の免許要件に「人的構成」及び「信用状態及び資金調達の能力」と規定されており、これで十分であると考えられる。
(3) 酒類の製造免許
酒税法(昭和28年法律第6号)第10条(免許の要件)第11号で「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」ことが免許を与えないことができる要件とされ、さらに、同法第11条(免許の条件)で「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」ときに、製造量・範囲に条件を附することができるとされている。以上の条項は、酒税の保全のために、酒類の製造業における需給調整を行う条項である。
運用面で、実際に当該需給調整が行われているのは、中小企業の多い清酒及びしょうちゅう等の製造業であり、結果として中小企業保護となっているおそれがあると考えられる。
酒税の保全の観点から、需給調整も必要との考え方があるが、一般に需給調整規制は行政の裁量を広く認めるため弊害が多く、既存企業保護を介する手法の効率にも疑問がある。また、酒税の保全のためには、逆に、新規参入を促し、産業全体としての活性化を図る方が適切であると考えられる。
(4) 公衆浴場の営業許可
公衆浴場法(昭和23年法律第139号)に定める一般公衆浴場(物価統制令で価格規制を受ける公衆浴場)の配置規制は、乱立による過当競争を防止し、また地域的偏在を防止することで、公衆衛生の維持向上を図るための措置であるとされる。同時に、当該条項は、一定地域における新規参入を、需給バランスを理由に規制するという需給調整規制と考えられる。
この配置規制については、一般公衆浴場が現状の配置規制の下でも減少し続け、乱立という事態が想定しにくくなっていることから有効性が失われているものと考えられる。
一般公衆浴場に対する各種助成措置については、仮に競争の結果廃業する公衆浴場が発生する場合でも、結果として、より良質のサービスを提供することで利用者から支持された優良な一般公衆浴場が残るため、助成措置は、より有効で適切な対象に実施されることになると考えられる。
(5) 市町村以外の水道事業経営の認可
水道法(昭和32年法律第177号)第8条第1項第1号は「一般の需要に適合すること」という認可基準を定め、水道事業に参入する事業者に不特定多数の住民の生活用水の需要にかなうよう供給を行うことを求め、供給者を選べない需要家の保護を図っている。
原料水の地域依存性及び有限性、導管ネットワークの有する自然独占性と、水道需要が一般には飛躍的に伸びないことから、水道事業には地域独占が必然とされる。そのため、第8条第1項第4号で水道事業の地域独占を定めているが、規制緩和の議論の中でエネルギー関係の地域独占、自然独占についても見直しが行われており、水道事業に関しても技術革新などにより代替する供給構造が具体化する可能性は将来的には否定できない。
同法第8条第1項第1号は、地域独占の条件が失われたときに、行政が需要を想定してその想定量への対応を許可の要件として求めることで、供給能力を制約する需給調整規制として働く懸念がある。
(6) 国内産糖製造事業者の指定製造施設の設置承認
甘味資源特別措置法(昭和39年法律第41号)による指定製造施設の設置承認は、「生産振興地域(沖縄県、鹿児島県南西諸島、北海道)」において甘味資源作物(さとうきび、てん菜)の生産量の見通しに対して製糖施設の原料処理能力が過剰になることによって、地域内の国内産糖製造事業の健全な発展が阻害されることを回避し、地域内における甘味資源作物の生産の振興と農業経営の改善を図る措置であるとされている。しかしながら、行政が甘味資源作物の長期生産量を見通し、その量に対応する製造施設を承認するという制度は、行政による需給バランスを図る裁量を前提とした需給調整と考えられる。また、同法の承認要件は、全体に抽象的で、行政の裁量の範囲が大きく、その判断の基準が申請者が事前に当否を予測できる程度に明確であるとは言えない。
さらに、同法第13条第2項第1号は、「著しく過大にならない」という過剰設備防止条項であり、甘味資源作物の生産量に対して原料処理能力が相当過大となっている地域においては、この条項によって新たな製造施設の設置が禁止される結果となっているものと考えられる。製造施設の設置を制限することで、製造施設の原料処理能力が過剰になることによる国内産糖の製造コストの増大を回避しているという主張があるが、本来起こりうる製造事業者間の競争を排除し、国内産糖の製造コストを上昇させ、ひいては砂糖の消費者価格を上げている懸念がある。
(7) 酪農事業施設の設置承認
集約酪農地域における酪農事業施設の設置承認は、同地域で生産される生乳に対し、乳業施設等が過剰となること等によって牛乳乳製品の流通・加工コストが増加することを回避し、これにより同地域内の酪農経営の安定及び乳業施設等の合理化を促進するために行っているとされる。しかしながら、行政が集約酪農地域内における生乳の生産量を予測し、その量に対応する生産施設を承認するという制度は、市場に供給される牛乳乳製品の数量を直接調整することを目的としたものではないものの、行政による集約酪農施設内の生乳量と処理能力の需給バランスを図る裁量を前提とした需給調整であると考えられる。その要件は、いわゆる「99通達」(注)が廃止された現在、全般に調整の裁量の範囲が大きく、事業者の自主的な判断を制約する懸念がある。
また、酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(昭和29年法律第182号)第10条第2項第3号は、「著しく過剰にならない」という過剰設備防止条項であり、現状の製造施設の過剰状況を考慮すると、この条項によって新たな製造施設の設置が依然として制限される結果になっているものと考えられる。この規制は、集約酪農地域内で、本来起こりうる製造事業者間の競争を制限し、同地域内での牛乳・乳製品の製造コストを上昇させ、ひいては国内の消費者価格を上げている懸念がある。
(注)「99通達」:「乳業施設の新増設について」(昭和58年9月9日付け農林水産省経済局長、構造改善局長、畜産局長連名通達)
(8) 中央卸売市場における卸売業者の許可
中央卸売市場における卸売業者は、市場機能の基幹的な担い手として、生産者から集荷した物品を仲卸業者及び売買参加者に販売を行う機関であり、取引の相手方が@多数であり、A特に集荷については県境を越え、全国的に分布している。このことから、一旦財務上の事故が起こるとその影響が広範囲にわたるため、健全な経営と財務の維持を図るために農林水産大臣の許可制としているとされる。
同許可は、需給調整条項の外観を有するものの、収容能力に一定の限界のある施設において営業を認める性格のものであり、また、当該施設外において同様の業務を営むことを規制するものではないことから、他の規制とは性格が若干異なるとも主張されている。
卸売市場法(昭和46年法律第35号)第17条第2項第2号においては、「当該中央卸売市場の卸売業者の間において過度の競争が行われ、その結果、当該中央卸売市場における卸売の業務の適正かつ健全な運営が阻害されるおそれがあると認められるとき」は許可しないことができるとされている。本条項は、収容能力に一定の限界がある施設における競争制限を目的とした需給調整条項であると考えられ、また、その要件は抽象的で裁量の範囲が大きい。
また、法目的とされる経営の健全性と財務の維持については、別途他の条項によって担保されており、本条項は、実質的に紛争防止条項として、裁量的に利用されているものと見られる。
同制度の下で、卸売業者は、市場の広さに限度があるため、その最高限度数が開設者である地方公共団体の決定によって1または2という形で少数に制限され、一旦参入すると経営不安定等で役割が果たせず許可の取り消しを受けない限り、更新制度がないため既得権として事業を続けられるという問題がある。
(9) 前払式割賦販売業の許可、前払式特定取引業の許可、割賦購入あっせん業者の登録
前払式割賦販売業の許可及び前払式特定取引業の許可は、事業者の財政状態の健全性を確保することにより、割賦販売等にかかる取引を公正にし、健全な発展を図ることにより消費者を保護することを目的としているとされる。
また、割賦購入あっせん業者の登録は、あっせん事業者の健全性を確保することにより、直接消費者に商品を提供する販売事業者を保護し、結果として消費者の保護を図る制度であるとされる。
しかしながら、3つの制度が要件とする割賦販売法(昭和36年法律第159号)第15条第3項は、当該申請者の「事業活動が中小商業者の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害するおそれがあると認めるときは、同条の許可をしないことができる」としており、中小商業者の健全性を担保するために、競争を制限するという手法を採っている。こうした規制は、競争を制限することによって効率的でサービス等の向上が見込める新規参入を阻害し、結果的に既存事業者を保護してサービス提供者を制限する形で、実質的に需給調整として行われる可能性がある。また、消費者保護は、別途、より直接的な手法で行うことが望ましい。
(10) 小売市場開設許可
小売市場開設許可制度は、ディベロッパーが投機目的で小売市場を濫設し、高賃料で小売商から不当に利益を搾取していたことを踏まえ、投機目的での小売市場開設によって小売商が不当に害されることを防止するためディベロッパー行為を規制の対象としたもので、小売商の事業参入・設備規制には当たらないとされている。また、近年では、地方の不当な独自規制の抑止を行うためにも、法律による規制が必要と主張されている。
しかし、小売商業調整特別措置法(昭和34年法律第155号)第5条第1項第1号には、許可除外要件として、「小売市場内の小売商との競争」と「周辺の小売商との競争」が「過度に行われることとなりそのため中小小売商の経営が著しく不安定となるおそれがあること」との競争制限条項が存在し、小売商業者の配置を調整する需給調整規制として運用される可能性がある。
当局は、競争の結果行われる過度な顧客誘引行為等の不公正な取引を防止すると説明するが、そのために小売市場の開設を制限するのは、現在では過剰規制であると考えられる。本法が制定された昭和30年代半ばと現在の小売商を巡る環境は全く異なっており、ディベロッパー等の不当な搾取から小売商を守るという制度の妥当性についての再検討が必要であると考えらる。
(11) 工業用水道事業の許可
工業用水道事業は、特定の契約先に対して、工業用水を供給する事業である。工業用水道事業法(昭和33年法律第84号)は、工業用水の安定的かつ継続的な供給を確保するため、事業の開始前に、事業計画、施設等が一定要件を満たしているかを確認する許可制を設けている。
本許可制度は、需給調整の観点から参入・設備規制を行うものではなく、現実にも本条項によって参入を断念した事例は存在していないとされている。しかし、同法第5条第1項第1号には、許可の要件として「その工業用水道事業の開始が工業における一般の需要に適合すること」と定め、許可の際に行政による需要見通しへの適合を図る趣旨の需給調整条項の外観が存在する。
(12) 航空機の製造または修理の事業許可
航空機製造事業法(昭和27年法律第237号)に基づく事業活動の調整は、航空機産業の技術・製造能力の保持のための規制であり、直接国民生活に対して財・サービスの提供を抑制している需給調整規制ではないと主張されている。また、航空機産業自体が、防需の占める割合が高く、国際的な寡占体制が進んでいることなど、競争的な産業とはいえないとの主張がなされている。
同法第2条の5第1項第2号は、「その許可をすることによって当該航空機又は特定機器の製造又は修理の能力が著しく過大にならないこと」という過剰能力防止条項という形の需給調整によって、生産の基盤となる技術と製造能力を維持しようとしている。この条項は、新規の参入を調整して、既存事業者の経営基盤を維持することにもつながる。
わが国航空機産業は、需要の大部分を占める防衛調達に関しては予算の制約から調達機種・機数が限定されて、自由競争を通じて需要が開拓・拡充されるという通常の産業の形態とは異なっているとされる。しかしながら、事業調整に関しては、わが国の防衛を支える防衛産業・航空機産業の在り方を含めた総合的な議論の中で検討を行うことが必要である。
(13) 石油精製業の許可
石油業法(昭和37年法律第128号)では、石油精製業を行おうとする者は、通商産業大臣の許可を受けなければならないとし、その許可の基準として、同法第6条第1項第1号で「その許可をすることによって特定設備の処理能力が石油供給計画に照らして著しく過大にならないこと」を求めている。本条項は、過剰設備防止による需給調整規制であるが、当局は、本条項はエネルギー危機の際のセイフティ・ネット条項であり、平常時には使用しないため、事実上競争制限的な弊害はないと主張する。
仮に、現状において、本条項が競争制限的に運用されていないとしても、本条項のような需給調整条項を維持することを、セイフティ・ネット条項であることのみをもって正当化することは適切でない。
(14) 電気事業の許可
電気事業を営もうとする者は、電気事業法(昭和39年法律第170号)によって通商産業大臣の許可が必要とされ、法律で定められた要件に適合していることを要求される。同法第5条第1項第1号では、「その電気の供給が一般の需要、(中略)供給地点おける需要に適合すること」とされているが、これは、実質的な地域独占事業に対して需要家を保護するために、需要家のニーズに適合する供給であることを求める規定であるとされる。
また、同法第5条第1項第5号は、典型的な過剰設備防止条項であるが、本条項は、現在の電気事業者による地域独占の根拠条項として機能している。
これらの規定は、電気事業がその一部に自然独占性を有する産業であることを反映したものである。したがって、本意見のエネルギー分野の提言を踏まえつつ、電気事業の自然独占性について検証した上で、これらの規定について抜本的な見直しを行うべきであると考える。
(15) 一般ガス事業の許可
一般ガス事業を営もうとする者は、ガス事業法(昭和29年法律第51号)によって通商産業大臣の許可が必要とされ、法律で定められた要件に適合していることを要求される。同法第5条第1項第1号では、「その一般ガス事業の開始が一般の需要に適合すること」とされており、これは、実質的な地域独占事業に対して需要家を保護するために、需要家のニーズに適合する供給であることを求める規定であるとされる。
また、同法第5条第1項第3号は、典型的な過剰設備防止条項であるが、本条項は、現在の一般ガス事業者による地域独占の根拠条項として機能している。
これらの規定は、一般ガス事業者が自然独占性を有する産業であることを反映したものであるとされる。したがって、将来的に直接競争が導入された場合に、これらの規定について抜本的な見直しを行うべきであると考える。
(16) 簡易ガス事業の許可
簡易ガス事業を営もうとする者は、ガス事業法によって供給地点群ごとに通商産業局長の許可が必要とされ、法律で定められた要件に適合していることを要求される。同法第37条の4第1項第1号では、「その簡易ガス事業の開始が一般の需要に適合すること」とされ、同条項は、実質的な地域独占事業に対して需要家を保護するために、需要家のニーズに適合する供給であることを求める規定であるとされる。
また、同法第37条の4第1項第4号は、典型的な過剰設備防止条項であるが、本条項は、現在の簡易ガス事業者による地域独占の根拠条項として機能している。
これらの規定は、簡易ガス事業者が自然独占性を有する産業であることを反映したものであるとされる。したがって、将来的に直接競争が導入された場合には、これらの規定について抜本的な見直しを行うべきであると考える。
(17) 熱供給事業の許可
熱供給事業を営もうとする者は、熱供給事業法(昭和47年法律第88号)によって供給区域ごとに通商産業大臣の許可が必要とされ、法律で定められた要件に適合していることを要求される。同法第5条第1項第1号では、「その熱供給事業の開始が一般の需要に適合すること」とされ、同条項は、実質的な地域独占事業に対して需要家を保護するために、需要家のニーズに適合する供給であることを求める規定である。
この規定は、熱供給事業者が自然独占性を有する産業であることを反映したものであるとされる。したがって、将来的に直接競争が導入された場合には、これらの規定について抜本的な見直しを行うべきであると考える。