13 雇用・労働
国際的な大競争、少子高齢化の進展等の内外の状況の変化の中、経済活力の維持・向上のためには、時代の変化に応じた産業構造の転換が不可欠であるとともに、それに柔軟に対応できる柔軟な雇用環境の実現が求められる。
労働の担い手たる国民の高齢化は急速に進んでおり、近い将来には労働人口の減少が確実視され、特に若年労働力の減少が及ぼす影響が懸念されている。我が国の将来にわたる発展のため、限られた人的資源を有効に活用し、国民経済全体の生産性の向上を図っていかねばならない。このため、国民の就業意識やライフスタイルの多様化に十分対応し、労働者の能力や意欲を最大限発揮させるような労働関係の規制やシステムの変革・多様化が必要である。具体的には、社会の成熟化を踏まえた上で、労働力の流動化や雇用形態の多様化、意欲ある女性や高齢者の活躍の場の拡大・整備などを図っていくべきである。
現実の労働力の需給状況をみると、業種間・職種間・年齢間のミスマッチが顕在化しており、また、日本の産業や雇用の空洞化が問題になってきている。
他方、民間の有料職業紹介事業に関する規制の根拠の一つであったILO第96号条約の改正条約(第181号条約)が本年6月に採択され、従来は、公共の職業安定機関を補完する役割しか認められていなかった民間の職業紹介事業者について、労働市場において果たす役割を認識し、民と公の協力の促進をうたい、派遣も民間の雇用関連サービスの一分野として認知する、など大きな方向転換が行われた。
以上のような環境の中、雇用・労働に関する様々な規制を、撤廃あるいは緩和することにより、民間活動を活性化させ、新規事業分野の拡大発展を円滑化し、意欲と能力の高い労働者が独創的な業績をあげられるような雇用・労働環境を実現する必要がある。
【第1次意見及び第2次意見の実施状況】
(1) 有料職業紹介事業の規制緩和
産業構造の転換に応じて労働移動が円滑に行われるよう、労働力の需給調整機能の多様化が求められている。また、職業ごとの専門性の高まりや、労働者の仕事に対する希望の多様化などから、職業紹介に際してきめ細かいサービスが必要とされるようになってきており、民間の職業紹介事業の果たす役割が大きくなってきている。
第1次意見では、取扱職業の大幅拡大を前提に、「民間が扱うことが適切な職業と不適切な職業を区分する基準を明確化し、民間が扱うことが不適切な職業を列挙することにより、それ以外は、民間が扱えることとすべき」とした。
これに対して、「職業安定法施行規則の一部を改正する省令」(平成9年労働省令第9号、本年4月1日施行)により、取扱職業の拡大と、民間が扱うことが不適切な職業を列挙するというネガティブリスト方式の導入がなされ、取扱職業の雇用者数(平成2年国勢調査ベースの推計)で約18%から約60%まで拡大されたことについては一定の評価をする。
しかし、取扱職業の表記が一般には馴染みの薄い職業分類を用いていることから、十分理解されない場合がある。また、運輸・通信の職業等については取扱職業の拡大が実施されておらず、職業分類の大分類レベルでネガティブリストに掲げる(但し、従来からの取扱職業は除く)という形式になっている。このため、運輸・通信の職業等は、今後就業人口の増加や職業の多様化が期待できる職業領域であるにもかかわらず、「取扱職業の逐次追加方式では職業の高度化・多様化の中で後追いとなる」という、第1次意見で指摘した弊害を引きずることになるという問題点がある。従って、これらの分野における更なる取扱職業の拡大の実施と、民間が取り扱うことが不適切な職業を列挙するネガティブリスト方式の徹底を実施すべきである。
また、民間が取り扱うことが不適切な職業を区分する基準については、「不当・違法な職業紹介、差別的な職業紹介が生ずる恐れがある職業を除く」という基準が示されたが、必ずしも明確になっているとはいえない。より客観的、具体的な基準の明示を実施すべきである。その上で、その後の状況の変化に応じ、取り扱いが不適切でなくなった職業についてはネガティブリストから外すことを継続的に実施すべきである。
事業開始に当たっての許可制については、委員会意見が尊重され、本年4月よりマニュアルの整備や若干の手続、提出書類の簡素化が実施され改善が行われたが、なお不十分であり、今後とも、改善を継続すべきである。具体例として、許可の有効期間を挙げる。有効期間が1年間というのは余りにも短い。規制の根拠であったILO第96号条約の改正も決定していることでもあり、手続の簡素化の観点から有効期間を延長すべきである。また、許可の要件を明確かつ簡潔で裁量の余地の極めて少ない制度として徹底すべきである。更に、将来的には、許可制を届出制に変更することを検討すべきである。
事業者が求人企業から徴収する紹介手数料の自由化という委員会意見に対しては、依頼を受けて実施する相談、助言、あっ旋等の業務を対象とする第2種紹介手数料が本年4月に新設され、事業者が届け出、承認を受けることで自由に設定できるという措置が実施された。しかし、求職と求人の内容を照合する業務については第1種紹介手数料の対象とされ、上限規制が継続している。第1種紹介手数料についても事業者が届け出、承認を受けることで自由に設定できるように検討すべきである。
(2) 労働者派遣事業の規制緩和
派遣労働という形態は、急な雇用ニーズや期間の限定された雇用などを求める企業と、長期間同じ企業で働くことを望まず派遣という就労形態を求める労働者の増加、という労使双方のニーズに対応できるものである。また、女性が活躍しやすい就労形態でもあり、労働力の供給手段として今後とも重要性が高まっていくと想定される。
第1次意見では、適用対象業務の大幅拡大を前提に、「労働者派遣が適切な業務と不適切な業務を区分する基準を明確化し、労働者派遣が不適切な業務を列挙することにより、それ以外は、労働者派遣事業の対象業務とするべき」とした。
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令の一部を改正する政令」(平成8年政令第334号、昨年12月16日施行)により、11の適用対象業務の拡大が実施され、現在関係審議会においてネガティブリスト方式の導入も含めて更なる拡大が検討されているが、委員会意見を最大限尊重し、大幅な拡大を実施すべきである。なお、その際、労働者派遣が不適切な業務を区分する基準を客観的、具体的に明確にすべきである。更に労働者派遣が不適切な業務を列挙するというネガティブリストの形式を徹底すべきである。その上で、その後の状況の変化に応じ取り扱いが不適切でなくなった業務についてはネガティブリストから外すことを継続的に実施すべきである。
派遣労働者保護のための措置に関しては、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律」(平成8年法律第90号、昨年12月16日施行)により、派遣労働者からの苦情の処理に係る指導など一部の措置が実施されたが、今後とも適切な措置を講ずるべきである。
事業開始の許可制度に関しては、委員会意見が尊重され、昨年12月及び本年4月に許可の有効期間の延長、マニュアルの整備や手続、提出書類の簡素化がいくつか実施され改善が行われた。今後とも、常に見直し改善を図る姿勢が重要である。
育児・介護休業取得者の代替要員については、原則として業務を問わず派遣の対象業務とできる特例措置について、昨年12月に委員会意見の通り実施されており評価する。
(3) 1年単位の変形労働時間制の規制緩和
季節により業務量の繁閑の差が激しい業種においては、繁忙期に労働時間を集中させ、閑散期に休日を多く配置する方が、労働時間と休日の設定が業務の実態に適したものとなり、労働時間の短縮に実質的な効果が期待できる。このため、1年単位の変形労働時間制が設けられ、労使協定の締結により、特定の週または日において法定労働時間を超えて労働させることができることになっている。実際の導入状況を見ると、現状の制度では満たすべき要件が厳しいという指摘がある中で、導入企業が平成7年では8.7%であったものが、平成8年には15.1%と増加しており、本制度の導入に対する企業のニーズが高いことがわかる。
第2次意見では、「1日・1週の上限時間を引き上げるとともに、適用除外となる労働者の範囲や労働日ごとの労働時間の特定に係る要件の弾力化を実施すべき」とした。あわせて、労働日・労働時間の設定に当たっての労使協議における、労働者の健康等への配慮の必要性についても指摘した。
関係審議会において変形労働時間制の在り方に関する検討が実施されてきたところ、今般建議がなされた。この建議の内容を踏まえ、速やかに法令上の措置を実施すべきである。
(4) 裁量労働制の規制緩和
使用者が労働者に対して、業務遂行の手段や労働時間の配分等について具体的な指示をすることが困難である業務について、業務遂行方法を大幅に労働者自身に委ねることで、労働者の意欲を高め、効率的で創造的な業績を期待する制度として裁量労働制が創設された。しかし、適用できる対象が5業務と極めて限定されていることから、第2次意見では、「ホワイトカラーの業務に関し、裁量労働制が適用できる対象業務を、業務遂行の方法に係る裁量が認められるものについて、大幅に拡大すべき」とした。
本年4月1日に適用された労働大臣告示(平成9年労働省告示第7号)により6業務の追加が実施され、更に、関係審議会において裁量労働制の在り方に関する検討が実施されてきたところ、今般建議がなされた。この建議の内容を踏まえ、速やかに法令上の措置を実施すべきである。
(5) 労働契約期間の規制緩和
現在、労働基準法(昭和22年法律第49号)により、期間の定めのない労働契約を除いては、1年を超える期間について労働契約を締結することが禁止されている。そのため、専門的能力をもつ労働者を1年を超える期間を限定して労働契約を締結したいという企業のニーズや、一つの企業での終身雇用ではなく一定期間の契約社員という形態を望む労働者の増加などに対応できない状況となっている。
雇用形態の多様化や労働者の就業意識の変化に対応できる制度への改善という観点から、第2次意見では、「専門能力を有する者や定年退職後の高齢者、一定期間を区切ったプロジェクト等に携わる者について、労働契約期間の上限を3年ないし5年程度に延長すべき」とした。
関係審議会において労働契約期間の上限の見直しに関する検討が実施されてきたところ、今般建議がなされた。この建議の内容を踏まえ、速やかに法令上の措置を実施すべきである。
(6) 女性の時間外・休日・深夜労働規制の撤廃
労働基準法制定当時、弱者としての女性を保護するという観点から、女性の時間外・休日・深夜労働の規制が設けられた。しかし、女性の職場での活躍が拡大してきた今日では、この規制は、男性と同等に仕事で活躍したいという希望を持つ女性の意欲や昇進機会を阻害し、企業による女性の採用や活用に対する制約の一つとなってきていた。そこで第2次意見では、「産前・産後休業等の母性保護措置は当然必要としても、女性の時間外・休日・深夜労働の規制については撤廃すべきである」とした。
政府において委員会意見に沿った方向で検討が進められ、本年6月18日に公布された「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律」(平成9年法律第92号、平成11年4月1日施行)により撤廃されることになった。これは、積極的な就労意欲のある女性の活躍と企業による女性の活用の促進に効果があるものと評価する。