14 教 育
豊かな社会とは何か。経済的・物質的な豊かさを達成した上で、豊かさを実感するためには、まず国民一人一人がどう生きることが幸せなのか、という自身の価値観を確立しなければならない。その上で自己実現のために自ら選択し、選択した以上は自分で責任をとるという自律も必要である。国民一人一人が自立し、しかも互いに多様な価値が存在することを認め合ってはじめて豊かな活力ある社会がもたらされると考える。
このような個を育てる基本は教育にある。しかし、現在の教育制度のもとでは、学力の平均的水準の向上はもたらされたが、画一的、均質的であり、自らが判断し、選択できるのだ、といういわゆる「生きる力」も育てられていないし、個性や才能を伸ばすチャンスも制限されている。
改革を迫られている現在の日本において、このような硬直的な意識こそが障害になっているという観点から、第2次意見では初等中等教育について指摘し、委員会では、本年は高等教育について検討を行った。
第2次意見では、初等中等教育分野について、教育を受ける側の選択機会を拡大する観点から、学校選択の弾力化、中学校卒業程度認定試験の弾力化の問題を、また教育を与える側の自由度を拡大する観点から、教科書採択制度の改善や社会人教員の登用の促進の問題等について指摘した。保護者、子供が学校を評価し、自ら選択することにより、特色ある学校作りが可能となり学校教育の活性化が図られ、結果として多種多様な資質・能力を持つ子供一人一人の個性や才能が引き出されることを意図したのである。
本年は、高等教育について検討を行った。大学は我が国の人的資本形成の中核をなすものであって、教育、研究の両面で大学が果たすべき役割は、極めて大きいと期待されている。
しかし、大学教育の現実を見ると、意欲ある学生の要求に十分に応えるものとは必ずしもなっておらず、社会の変化に対応した大学の新陳代謝、学部・学科等の組織体制の見直しを今後一層進めていく必要がある。また、大学のレジャーランド化という状況が従来から指摘されており、大学に期待される教育の実現に向けた大学改革が求められている。研究面では、科学技術基本計画に基づき、研究施設の改善、研究資金の充実、産学連携に係る規制緩和等が図られており、今後ともこれらの施策が着実に進められることにより、国際的レベルに向けての研究水準の向上等が期待できるものと考えられる。
このような大学教育の現状を踏まえ、委員会では、昨年と同様、教育を受ける側と教育を与える側の自由度という視点から、現在の大学制度について検討を行った。教育を受ける側の選択機会の拡大という観点から、多様な教育サービスの中から学生が柔軟に選択できるようにすることにより、学生の意欲と能力に応じた学習活動が可能となることを、また、教育を与える側の自由度の拡大という観点からは、大学、学部・学科等の新増設、収容定員増について、大学自らの創意、判断と意欲を基本とし、自己責任原則に基づいて競い合いながら質の高い多様な教育サービスが提供されるようになることを期待した。これらが一体的に取り組まれることにより、大学教育水準の向上、教育内容の多様化とともに、意欲のある学生がその能力を伸ばすことのできる柔軟な教育環境がもたらされるものと考える。
【第2次意見の実施状況】
(1) 学校選択の弾力化
市町村教育委員会に対し、学校選択の弾力化の趣旨を徹底し、市町村教育委員会が本来の機能を発揮し、学校選択の弾力化に向けて多様な工夫を行うよう指導すべきとの委員会意見に対して、「通学区域制度の弾力的運用について」(平成9年1月27日初等中等教育局長通知)が都道府県・市町村教育委員会に対して出された。また、各市町村教育委員会による学校選択の弾力化、調整区域の設定の拡大の取組事例等を継続的に収集し、市町村教育委員会に情報提供を行うべきとの意見に対して、「公立小学校・中学校における通学区域制度の運用に関する事例集」が作成され(平成9年9月)、全都道府県・市町村教育委員会に配布された。
今後は、通知後の市町村教育委員会における就学校指定に関する創意工夫、就学すべき学校の変更や区域外就学の弾力的な取扱状況、事例集の活用状況などについてフォローアップを行い、保護者の意向の重視を求めている委員会意見を踏まえ、保護者への周知の観点から、継続的に学校選択の弾力化の趣旨を徹底すべきである。
(2) 教育内容の多様化
ア 教科書検定の透明化
教科書検定制度の透明化については、現在の申請本及び見本本の公開に加え、検定意見箇所の一覧や検定意見箇所の具体的記述に即した検定意見の公開、不合格図書の理由書の公開を図るべきとの委員会意見に対し、本年度行われた平成8年度検定実施の高等学校用教科書についての公開の実施に際し、意見で指摘した資料の公開が行われた。
そのうち、検定意見箇所の具体的記述に即した検定意見の公開に関しては、マスコミからの要請も踏まえ約130の検定意見箇所について、具体的記述に即した検定意見に関する資料が作成され、全国6カ所の公開会場で公表された。
また、検定結果の公開の拡充及び公開方法の工夫を図るべきとの意見に対しては、文部省のインターネット・ホームページにおいて平成8年度検定の概要などを公表したことは、公開方法の工夫の第一歩として評価する。
教科書検定については国民の関心が高く、教科書に対する国民の信頼性を高めることが必要である。また、行政情報の公開に関する法制化も検討されているところでもあり、さらに一層公開性を高める努力をする必要がある。
したがって、今後は、具体的記述に即した検定意見に関する資料の充実を図るとともに、将来的には検定意見を文章化し、検定終了後に国民からの情報開示の求めに即座に対応できるような工夫を行うべきであり、そのための検討に速やかに着手すべきである。また、国民が検定結果に関する情報を常時入手できる場所を設け、どこに行けば検定結果に関する情報を入手できるかといった公開体制について、国民への周知を行うべきである。
イ 教科書採択制度の改善
当面、現在の共同採択制度においても、教科書の採択の調査研究に当たる教員の数が増えるのが望ましく、各地域の実情に応じつつ、現在3郡市程度が平均となっている採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善を図るべきとの委員会意見に対し、採択地区や採択方法の状況等について全国的に実態調査を行い、その結果を踏まえて「教科書採択の改善について」(平成9年9月11日初等中等教育局長通知)が都道府県教育委員会に対して出された。
現在のところ、各都道府県教育委員会において、通知を受けての取組の検討が行われているが、今後とも都道府県教育委員会の取組を促すべきである。それと同時に、委員会意見で指摘した通り、公立学校においても学校単位で自らの教育課程に合わせて教科書を採択する意義を重視すべきであり、将来的には学校単位の採択の実現に向けて、法的整備も含めて検討していくべきである。
ウ 社会人教員の登用の推進
特別非常勤講師制度について、担当できる教科を拡大するなどの制度の改善を図るべきとの委員会意見に対し、教育職員養成審議会第1次答申「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」(平成9年7月28日)の中で、小学校等の特別非常勤講師制度に関し、対象を全教科に拡大することとされた。
同答申の結論を踏まえ、速やかな制度改正が行われることに期待する。
(3) 中学校卒業程度認定試験の弾力化
現実に不登校になっている子供について、中学校在籍中に中学校卒業程度認定試験を受けられるよう、受験資格を緩和し、これらの子供に対する進学の機会を拡大すべきとの委員会意見に対し、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)の改正(平成9年4月1日施行)が行われ、試験を受けようとする学年の終わりまでに満15歳に達する不登校等の生徒についても受験資格を与えることとされた。
不登校となっている子供について、就学義務猶予免除者と同様に受験資格を得られることとされ、中学校でいじめ等で不登校となった子供があらためて高等学校に進学する意欲をもった際に、中学校卒業者に比べて不利にならない制度とする改正の趣旨は評価する。
同試験制度は、小学校及び中学校就学を免れることを一般化することを目的とするものではないが、様々な事由により義務教育諸学校を欠席している者に、できるだけ進学等の機会を与えることを意図するものである。
したがって、同試験の活用を図るため、いじめなどの理由による不登校者が試験制度を利用できることを、保護者及び子供に周知するよう指導すべきである。なお、試験が受験志願者にとって、より受けやすいものとなるよう、受験資格に関する基準等の在り方を常に検討すべきである。
また、いじめなどの理由により不登校となった受験志願者が、自らの希望に反し、受験資格(注)が得られないこととなっては、制度の趣旨が生かされない。このため、試験制度の趣旨をより生かすため、学校長や市町村教育委員会が積極的な支援・取組をし、受験志願者の意向が十分尊重されるよう努めるべきである。
(注):受験資格を得るには、出願申請の際、市町村教育委員会が作成する「就学義務の猶予・免除を受けることのできる事由に相当すると考えられる事由がある旨の証明書」を提出しなければならない。
【本年度取り上げた事項】
(1) 大学設置の弾力化
大学の新設、既設大学の学部・学科の増設及び収容定員増(以下「大学の新増設等」という。)を行おうとする場合には、大学設置・学校法人審議会の審査を経て国の認可を受けなければならない。また、国の定める設備、編制その他に関する最低基準である設置基準(大学設置基準(昭和31年文部省令第28号))に従わねばならないものとされている。
この設置認可制度は、大学としての一定の共通性と国際的に通用する教育研究水準の確保、計画的な人材養成、大学配置の地域バランス等の政策課題の実現を目的として行われているものである。
大学設置認可の基本的考え方については、本年1月の大学審議会答申「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」に基づき、本年2月に、大学設置・学校法人審議会の内規として、具体的な設置認可の取扱方針(「平成12年度以降の大学設置に関する審査の取扱方針」)が定められている。この基本方針によれば、大学の新増設等については、「抑制的に対応する」こととし、大学の新増設等が認められるのは、「学術研究の進展、社会経済の発展に伴う新たな需要又は地域社会の産業・文化の発展に寄与する観点からの需要に対応するために極めて必要性の高いもの」と制約されている。さらに、工業(場)等制限区域などの大都市部においては、「原則として抑制する」こととされ、一定の弾力化は図られているものの、基本的には収容定員の増を伴わない改組転換に限定されるなどより厳しい制約が課されている。
この制度の下で、現在、大学では、新しい種類の学部の創設、カリキュラム改革など具体的な取組が行われている。
しかし、このような大学教育の改革に向けた動きは見られるものの、大学に期待されている教育の実現という点では十分ではないと考える。
このような問題意識に立ち、委員会では、大学の設置認可について、現行制度のもとで、大学の自由度がどの程度確保されているのか、社会の変化に対応した大学の創意がどの程度生かされるのか、という視点から検討を行った。
大学の新増設等については、大学の判断と自己責任とを基本とし、国の関与は最小限のものとすべきである。大学の教育研究活動の自由度を高めることは、大学教育改革に向けてのインセンティブを与え、特色ある大学の一層の発展をもたらす。そのような観点に立って、大学設置基準、設置認可に関する手続きを見直すことが必要不可欠と考える。また、大学行政においても、大学間の競争、効率化という考え方を十分に取入れ、学生や社会の評価、選択を基本として、それに的確に対応できる創意と意欲ある大学が伸びていくことができるよう、今後とも大学設置認可について点検していくことが求められる。さらに、現在、政府において工業(場)等制限法の抜本的な見直しの作業が行われているが、首都圏等の大都市部における大学立地規制の必要性等についても検討が必要である。
したがって、大学の新増設等について、大学の創意、判断及び自己責任が設置認可に当たって十分に生かされるよう、以下のとおり、大学設置基準の見直し、設置認可に関する手続きの簡素化・柔軟化を行っていくべきである。
@ 大学設置基準の見直し
校地面積基準について、大学設置基準上、校舎基準面積の6倍と定められており、特別な事情のある場合には3倍まで緩和できることとされている。しかし、6倍あるいは3倍とする定量的な基準についての根拠は必ずしも明確ではなく、大学の新増設等に当たって大学側に対し不必要かつ過度な負担を課している可能性がある。このため、現行の基準を速やかに見直し、期待する大学の教育研究水準と校地面積との関係を捉え直した上で、大幅に緩和すべきである。
また、例えば体育館などの施設については、大学設置基準上、「原則として」設置するものとされているにもかかわらず、大学設置・学校法人審議会の内規(「大学設置審査内規」)においては、大学新設の場合にはその設置が必要とされている。このような不統一な取扱が、大学の過度な負担を招き、大学の新増設等に関する大学の創意工夫を妨げており、その必要性を十分に検討した上で基準の見直しを図っていくべきである。
A 大学設置認可手続きの簡素化・柔軟化
大学設置認可手続きについては、大学の創意や意欲に十分かつ迅速に応えうるものとするため、以下の点の改善が必要である。
a 審査期間
大学の学部や短期大学の学科を新設する場合には、開設予定年度の前々年度の9月までに認可申請を行うこととされている(いわゆる2年審査)。大学の学部に比べて規模が小さい短期大学の学科について、社会の変化に迅速に対応できるよう審査期間を短縮すべきである。
b 設置審査体制
今後の社会の変化を見通した大学の新しい試みにより一層適切に対応していく観点から、大学設置・学校法人審議会の委員について大学関係者以外からの更なる登用に配慮すべきである。
c 設置申請の条件
設置申請のための条件として、当該大学の既存学部の定員超過率が1.5倍未満であることが求められており、特にこの基準は入学定員の多寡にかかわらず一律に適用されている。入学定員の少ない小規模な大学においては、定員超過による教育研究上の影響は比較的少ないと思われることから、この適用に当たって弾力的に行えるよう見直すべきである。
d 事前相談
事前相談については、現在、大学の自主性・創意工夫を尊重し、申請書類の作成等必要最小限の技術的なものについて、申請者の希望に応じて行われている。しかし、現実には、一部の大学関係者においてその趣旨が十分認識されておらず、申請内容にかかわる事前指導がなされているかのような誤解が存在しているので、この点について大学関係者の正しい理解を促していくべきである。
(2) 学習選択の多様化・柔軟化
特色ある多様な教育サービスが提供されても、学生がその中から自由に選択することができなければ、その意味は半減することになる。学生が、その能力と意欲に応じて、自己責任原則の下、多様な学習の中から自由に選択でき、また、積極的な進路変更が可能となるよう、以下のとおり、学位授与機構による学位授与制度、転部・転科、安易な進級・卒業の抑制に伴う留年に係る定員管理、他の学校等における学修の単位認定等を柔軟化すべきである。
ア 学位授与機構による学位授与制度の柔軟化(単位累積加算制度の導入)
社会の成熟化、社会の急速な変化等に伴い生涯学習に対する意欲・関心が高まってきている。平成3年の大学設置基準の改正により科目等履修生が制度化されたことにより、大学に正規に入学せずに大学で学ぶ人が増加してきている。そのような学習の成果が適切に評価されることが、生涯学習社会の環境整備の一つとして求められている。
学士の学位については、4年制大学の卒業者に対して授与されるのが原則であるが、短期大学・高等専門学校の卒業等を基礎資格として、卒業後大学等において一定の単位を修得した者に対しても、学位授与機構がその内容を審査した上で授与することになっている。しかし、科目等履修制度で単位を修得しても、それだけでは学位授与の基礎資格がないことから、学士の学位が取得できない。生涯学習に対する意欲の高まりに対応し、その成果を評価するため、科目等履修生にも学位取得の道を開くべきである。
一方、特定の大学に在籍せず、単位の累積のみによって学士の学位を授与すること(単位累積加算制度)については、学位授与機構が専門的な見地から審査を行い学位授与にふさわしい履修の体系性をいかに担保するかという観点から、累積する単位の内容や学位授与の要件等について十分な検討が必要であるという指摘がなされている。
したがって、単位累積加算制度について、その実施に向けて、学位授与にふさわしい履修の体系性の確保等について速やかに本格的に検討すべきである。
イ 転部・転科、留年に係る定員管理の柔軟化
大学内の転部・転科、留年の取扱については、法令上の制限はなく、大学の判断で自由に行えることとなっているが、現実にはあまり行われていない。
学生の学習意欲、進路変更に対する学生の希望に積極的に応えられるよう、大学入学後の転部・転科の道を広げるとともに、また、「入学は難しいが卒業は易しい」と言われる大学教育の現状を改善するために、厳格な成績評価の実施、安易な進級・卒業の抑制を大学の判断で行っていくことが必要である。
現在、著しい定員超過により教育研究条件の低下を招くことがないように、既存学部・学科について定員超過率が一定の範囲を超える場合(1.5倍以上の場合)には、学部・学科の新増設等が認められていないが、この基準は入学定員の多寡にかかわらず一律に適用されている。
したがって、入学定員の小規模な大学の定員超過率については、転部・転科、安易な進級・卒業の抑制に伴う留年の取扱という観点からも、弾力的に行えるよう見直すべきである。
ウ 専門学校から大学への編入学
学校教育法(昭和22年法律第26号)では、短期大学、高等専門学校の卒業者は、大学に編入学できることとされているが、専門学校(専修学校専門課程)の卒業者は、大学への編入学が認められていない。
しかし、専門学校は、学校教育体系上も高等教育機関として位置付けられており、新規高卒者の15%以上が進学するなど社会的な評価も高い。また、平成3年の大学設置基準の改正により、専門学校での学習も大学が適当と認める場合には大学の単位として認められるなど単位の互換性が認められている。したがって、大学における学習機会を広く確保するために、専門学校卒業者の大学への編入学の道を認めるべきである。
この問題については、本年9月の「大学審議会大学教育部会における審議の概要(その2)」においても、「専門学校のうち、「修業年限が2年以上で総授業時数が1700時間以上のもの」を基準として、これを満たすものとして認定された専門学校を卒業した者について、大学等への編入学を認めていくのが適当である。」とされている。政府においては、早急に専門学校卒業生に大学への編入学を認めるよう制度改正を行うべきである。
エ 単位互換制度等の弾力化
大学は、教育上有益と認めるときは、他の大学、高等専門学校、専門学校等での学習や技能審査の結果等をもって、自らの大学で修得した単位とみなすことができることとされ、4年制大学の場合には卒業要件単位124単位のうち30単位が限度とされている。このように、単位数について一定の限度が設定されているのは、大学は、自らの判断において教育課程を立案し、大学教育にふさわしい内容の教育を自ら実施する責任を有するとの基本的な考え方によるものである。
しかし、現行の制度をみると、大学が単位認定のできる学習の範囲については、例えば英検が認められているのに対し、社会的に評価されているTOEFLやTOEICが認められていないなど合理的な基準となっていない。これは最終的に教育実施の責任を有する大学が判断すべきものである。また、単位数の限度も卒業要件124単位のうち30単位までと定められているが、大学の自由度を一層高めていくことが必要である。
したがって、教育内容の多様化、教育課程に対する大学の本来的責任という観点から、各大学の判断によって大学が学外の多様な学修の成果を単位認定のできる範囲について大学の判断に委ねるべきである。また、30単位までと定められている単位数の上限について見直すべきである。
オ マルチメディアを活用した遠隔授業の単位認定
情報通信技術の急速な進展により、鮮明で双方向性を有する映像技術が現実のものとなっている。大学においても、マルチメディアを活用することにより、遠隔地においても大学の授業を受講することができるようになり、地理的な制約を越え新しい取組が可能となる。さらに、単位互換制度や科目等履修生制度と結びつくことにより、高等教育サービスの選択肢の拡大、高等教育機会の拡大につながることになると考える。また、新しい授業方法が広く採用されることは、大学における授業そのものの在り方の見直しにつながり、大学の授業改善のきっかけとなることも期待される。
マルチメディアを活用した遠隔授業については、現在の大学設置基準等においては規定がなく、大学の単位として認められる基準が不明確であることから、大学におけるマルチメディアを活用した教育の実施及びその互換性を阻害している面がある。
したがって、教育内容の多様化等を図る観点から、マルチメディアを活用した遠隔授業についても大学の単位として認められることを明確にすべきである。
(3) 入学制度の弾力化
大学生の学力、活力の低下の大きな要因として、入学者選抜制度の在り方が指摘されている。大学への入学、より偏差値の高い大学への入学こそが人生の成功の基盤であるという価値観に支配されている状況の下、学力検査中心の方法で選抜が行われてきたことが、受験生に過剰な精神的な圧力を与えていると考えられる。このことが、大学で何を学ぶのかではなく、大学入学のみを目的とした消極的な姿勢を生み、入学後の目的意識と学習への意欲の稀薄さが、高等教育水準の低下、ひいては大学卒業者の能力低下といった深刻な事態を生み出している。
一方大学側も、入試に労力と時間とコストを取られることへの懸念と、一定の受験者数を確保することを重視するために、伝統的に行われてきた実施方法を根本的に見直すことに消極的である。そのため、これまで再三指摘されながら入学制度の根元的な改善に至っていないものと思われる。
このような高等教育全般の歪みを是正するため、多様な能力や学習への積極的な意欲が、受験によって削がれることなく、入学後もさらに生き生きと高等教育や研究に参加できるような、入学者選抜が早急に実施されるべきである。
入学志望者が自ら希望する大学を選び、積極的に学習・研究するための挑戦の機会を多く与えられるべきであると同時に、大学側も自らの大学に入学すべき学生を自らの責任で主体性を発揮して選べるようにすべきである。大学の自由な発想によって多様な選抜方法が提供されるということは、入学希望者の多様な個性や能力・適性、意欲が評価されるとともに、入学後の意欲的な姿勢につながる。
そこで、入学者選抜制度に関する改革の一歩として、入学及び受験機会、推薦入学、大学入学者年齢について具体的な検討を行った。
ア 大学入学機会および受験機会の複数回化
大学の入学者選抜については、毎年5月ごろに全大学に通知される「大学入学者選抜実施要項」によって、国公私立それぞれについて、一般入試、推薦入学などに分けて実施期間が定められている(一般入試は2月1日から4月15日まで、推薦入学選抜は11月1日以降)。そのため、毎年この時期にすべての大学の入試が集中的に実施されることになる。通年入試や秋季入学が普及していない現状では、春に試験に合格できなければ1年待たなければならない。そのことが、受験生が自らの希望より「入学すること」自体を優先させる状況を生み、受験競争の過熱及び大学進学目的の希薄化、さらに入学後の無気力化の一因となっていると考えられる。
受験者の選択の拡大及び精神的な負担の軽減の観点から、これまで一般的に行われている4月入学に加えて、秋季入学が今後多くの大学に普及していくことが望ましい。しかしながら、現在のところ、秋季入学はごく一部の大学が取り組んでいるにとどまっている。
学校教育法施行規則において、学年の開始日と終了日について、4月1日から3月31日と規定されており、学年の途中における学生の入学・卒業に関する要件は、特別の必要があり、かつ、教育上支障がないときに限定されている。そのため、秋季入学はあくまで極めて例外的にしか実施できていない。このような取扱とされていることが、大学の側における秋季入学の普及を阻害しているおそれがある。
したがって、大学における秋季入学の導入を促進するために、学校教育法施行規則における学年の途中における入学に関する規定を改め、秋季入学をより柔軟に導入できるようにすべきである。併せて、大学における秋季入学の取組を成功させるために、企業に対し秋季卒業生を認め、評価する姿勢を求めたい。
イ 推薦入学制度の弾力化
推薦入学制度は、学力検査を行うことなく高等学校における学修成果や、志願者の多面的な個性や能力・適性、意欲などを評価し、入学者を選抜できるという点で、非常に有効な方法である。一般入試が厳然と学力検査中心で行われている実態に鑑み、推薦入学制度の有効利用を推進すべきと考える。
現在、各大学の入学定員に占める推薦入学の割合について、大学入学者選抜実施要項において、大学は3割、短大は5割を超えないことを目安とすることとされている。また、実施要項において、高等学校長からの推薦を前提としている一般的な推薦入学と、個人を基礎とした評価を行う自己推薦(注)などの位置付けが、明確にされていない。そのため、各大学が多様な入学者選抜に取り組むことを阻害しているおそれがある。
したがって、学力検査では評価が困難な多面的な能力などを評価するという推薦入学の趣旨をより一層生かすべく、実施要項における推薦入学の範囲及び入学定員に占める割合を見直すとともに、割合があくまで目安であることを明確にし、各大学が自らの責任において、学校推薦や自己推薦等の、より様々な推薦入学を行い入学者を選抜できるようにすべきである。併せて、各大学に対し、受験生の志願校決定の判断材料となる推薦入学の募集人員について、誠実かつ厳正に公開することを求めたい。
(注):自己推薦とは、高等学校長からの推薦状ではなく、受験生が自己アピールのための書類等を直接大学に提出するもの。
ウ 18歳未満の大学入学
大学に入学できる者は、学校教育法及び学校教育法施行規則によって、高等学校を卒業した者、もしくは通常の課程による12年の学校教育を修了した者などとされており、国内の教育機関を修了して大学に入学できるのは、18歳以上の者とされている。しかし、中央教育審議会の第2次答申(本年6月26日)において、「教育上の例外措置」の「大学入学年齢の特例」として、「当面、数学や物理の分野に限ることが適当」「当面、対象を高等学校に2年以上在学した17歳以上の者とすることが適当」とされた。これを受けて、本年7月31日に学校教育法施行規則の一部改正が行われ、平成10年度から、数学と物理学の分野について17歳から大学に入学できる道が開かれた。
先に述べたように、大学に入学する者は、大学の責任において志願者の能力や意欲などを適切に評価し、判断すべきである。その意味では、ごく一部の分野の限られた範囲ではあれ、大学入学資格検定(大検)合格者を含めて弾力的な制度の運用が行えるようになったことは評価できる。
同答申においては、今回の18歳未満の大学入学の対象分野及び対象年齢について、当面の扱いとされており、今後継続的に検討が行われるものと思われるが、その際、大学での実施状況に関する情報を公開し、開かれた検討が速やかに行われることが重要である。
18歳未満での大学入学を可能にすることの意義は、特定の分野で非常に優秀な能力をもつ者に、少しでも早くから高等教育を受ける機会を認めることにより、その能力を一層引き伸ばそうということである。したがって、特定の分野に限ることなく稀有な才能をもつ者がいた場合には、早く大学教育を受ける機会が与えられるべきと考える。
この意義に鑑み、今後は、大学における実施状況を踏まえ、対象分野の拡大、対象年齢の引き下げについて検討すべきである。
(4) 産学官連携の円滑化
大学における受託研究は、民間企業や各省庁の機関等から委託を受け、委託者の経費負担により、国立大学の研究者が公務として研究を行うものであり、近年、急速にその受入れが伸びている。大学には極めて大きい研究リソースが集中しており、我が国の将来を考えるうえでもその有効な活用が社会全体として不可欠であるとともに、地域社会の中核として地域活性化の鍵となりうるものである。こうしたことから、産学官連携の円滑化に対する期待は大きく、その一つである受託研究については、今後とも活性化することが望まれる。
受託研究関係の予算は、謝金(注1)、旅費(注2)、研究経費(注3)の3つの区分(「目」)ごとに所要の経費が計上されており、予算執行に当たっては、受託研究経費を当初の研究計画に基づき各目に区分している。そのため、各研究者は、受託研究経費総額の範囲内であっても、一定の手続きを経なければ区分変更等ができず、研究計画の変更に柔軟に対応することができない。
受託研究は、民間等の外部資金を活用するものであり、委託の目的に適った研究成果をいかに達成するかがまずもって重要である。このため、現在の3つの経費区分に分けている予算執行の仕組み等を見直し、研究者の自らの判断で、受託研究の目的に沿って、効果的・効率的な研究が行えるような環境を整備することが求められている。
このような指摘に対しては、
とする意見がある。
しかし、@受託研究は、民間等の外部資金を活用するものであり、その研究成果が具体的に問われるものであること、A受託研究契約に基づき委託者に対し結果報告を行うことで受託研究の適正な執行を担保できることから、受託研究については、税金を直接投入する場合とは異なり、会計処理についてより弾力的な取扱をすることが可能であり、かつ合理的であると考える。なお、大学内の事務体制等の見直しにより一定程度の改善が図られることは確かであるが、上記のような制度的な改善が行われることにより、研究活動の柔軟性が大幅に増し、委託目的に適った効率的な研究が可能となり、高い研究成果を挙げることができるようになると考える。
したがって、受託研究について効果的・効率的な研究が行えるような環境整備のため、受託研究の目的の範囲内で、例えば目の区分など受託研究関係経費の会計処理の在り方を含め、研究計画の策定・変更に柔軟に対応できるシステムを検討するとともに、大学の事務体制についても併せて改善を図っていくことが必要である。
(注1) 国の事務、事業に協力した者に対する報酬及び謝金
(注2) 受託研究のために必要な調査、試験等に係る旅費
(注3) 備品費、消耗品費、通信運搬費、光熱水料費など