公共工事の規制の在り方

 公共工事は、国や地方公共団体が国民の税金を使って道路、ダム、港湾その他の社会資本を整備するために行われるものである。しかしながら、社会資本の整備と並行して、特に地方では公共工事に従事する建設業等が主力産業になり、公共工事の受注に強く依存する地域経済構造が徐々にでき上がってきた。しかも、公共工事は「良いものを安く」を目標としているにも関わらず、談合や、行き過ぎた地元中小建設業者優遇策の存在等により、コスト面での高止まりが顕在化してきた。さらに、地域振興や景気対策として公共工事投資を増加し続けてきたことが、国も地方公共団体も、膨大な財政赤字に苦しみ、財政破綻の危機に陥ったことの一因となった。

 今後とも必要となる公共工事は相当程度あると考えられるが、健全財政の再構築と限られた財源の中での公共工事の推進とを両立させるため、本年4月、政府は「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」を策定し、平成11年度末までに各種施策を実施し、それにより公共工事のコストを少なくとも10%以上縮減するための取組みに着手した。また、「財政構造改革法」に基づき、政府は、平成10年度の当初予算における公共投資関係費を対平成9年度の当初予算比で7%縮減する等の財政面での取り組みも開始した。

 委員会としては、このように公共工事を巡る状況が変化しつつある中で、公共工事に係わる各種制度を含む規制の在り方を取り上げることとした。公共工事に係わる各種制度等としては、会計法(昭和22年法律第35号)、地方自治法(昭和22年法律第67号)、建設業法(昭和24年法律第100号)、官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律(昭和41年法律第97号。以下「官公需法」という。)、それらの在り方を検討した中央建設業審議会(建設大臣の諮問機関)建議事項等があるが、これらを広義の規制と捉えた。

 公共工事の在り方についてはさまざまな批判が寄せられている。その多くは、@当該工事が真に必要なものであるか、A当該工事が効率的に行われているかの観点からの批判である。必要か否かはコストに依存する場合もあるから、@及びAが相互に完全に独立であるわけではないが、ここではAの観点から公共工事の規制の在り方を取り上げた。Aに関連する批判には、談合が行われている、指名の過程が透明でない、行き過ぎた地域要件が課せられている、行き過ぎた分離分割発注が行われている、共同企業体による地元業者優遇が行われている等がある。公共工事の競争性・透明性を向上させるとともに、国民経済的にみて有用かつ必要な量の公共工事を、可能な限り合理的なコストで実施しつつ、財政構造改革にも資するため、以下の論点について、公共工事の規制の在り方を検討した。

 @ 公共工事の入札・契約制度(会計法、地方自治法)について、自動落札方式の原則を見直していくべきではないか。

 A 公共工事の入札方式(会計法、地方自治法、中央建設業審議会建議事項)について、一般競争入札の在り方を見直していくべきではないか。

B 予定価格制度(会計法、地方自治法)の在り方を見直していくべきではないか。

C 低入札価格調査制度(会計法、地方自治法)及び最低制限価格制度(地方自治法)の在り方を見直していくべきではないか。

D ランク制(会計法、地方自治法、発注者ごとに定める工事請負業者選定事務処理要領等、中央建設業審議会建議事項)及び経営事項審査制度(建設業法)の在り方を見直していくべきではないか。

 E 履行保証制度(会計法、地方自治法、中央建設業審議会建議事項等)の在り方を見直していくべきではないか。

F 官公需施策、共同企業体制度その他の中小建設業対策(官公需法、中央建設業審議会建議事項等)の在り方を見直していくべきではないか。

(1) 現行制度の現状と問題点

公共工事に係わる各種制度には、上記@からFまでに掲げるとおり様々なものがあるが、委員会はそれらに関して現状を調査・分析し、検討を重ねた結果、それぞれ、以下のような大きな問題が存在しているという認識に達した。

ア 自動落札方式による入札・契約制度

公共工事の入札・契約における落札者の決定は、国の場合には会計法、地方公共団体の場合には地方自治法に、それぞれ基づき、最低の価格で申込みをした者を落札者として契約の相手方とする「自動落札方式」を原則としている。このため、欧米諸国で主流になっている、技術力や品質を加味した「総合評価方式」は例外的な場合に限定されている。国や地方公共団体の契約は公の立場で行われるものであるから、恣意性の排除や公正性の担保、経済性の確保が要請されることは当然であるが、自動落札方式では、落札者の決定に当たって、工事に係わる技術力や品質を評価できず、実力ある企業による設計提案や技術提案を伴う適正な競争が推進されない。

とりわけ地方自治法及び同法施行令には、落札者の決定に当たり価格以外の要素を考慮に入れることができる規定がないため、地方公共団体においては、公共工事の入札において総合評価方式を導入できる仕組みがない。地方公共団体の実態は多様であり、中には総合評価方式を行えるだけの十分な体制にないものもあるとの意見があるが、審査に当たって技術的能力を有する民間事業者等を活用するなどの方策により対応は可能である。

イ 入札方式

入札方式には指名競争入札方式と一般競争入札方式がある。公共工事においては、施工に係る信頼性を確保する観点から、指名競争入札方式が入札方式の原則とされてきたが、発注者が業者を絞り込むという点で恣意性が介在する余地が広いとともに、業者数が限られているため談合の温床になっているとの指摘が、これまでも多くなされてきた。こうしたことから、近年、入札手続の透明性・競争性の向上のため、平成5年12月の中央建設業審議会建議に基づき、大型工事については一般競争入札方式を採用するとともに、中小工事については指名競争入札方式の改善が行われてきた。このうち、中小工事については、少ない行政コストで不良不適格業者を排除し、施工に係る信頼性を確保するとの観点から、依然として一般競争入札方式の採用が見送られている。確かに、一般競争入札方式を中小工事にも適用した場合、不良不適格業者を排除できるかとの疑問や、排除するための審査等に係わる行政コストの増大が懸念されるとの意見もある。しかし、例えば、工事着工前の資格審査の強化、ボンド制度等の適切な活用、工事着工後の施工過程での的確な監督その他の事後的なチェック、不良工事に対するペナルティ、総合評価方式の円滑な実施等、不良不適格業者の排除と品質確保のための方策及びその事務量の軽減方策など、行政コストを抑える体制・方策を整備することにより、一般競争入札方式の採用の対象範囲の拡大は可能である。

ウ 予定価格制度

予定価格とは、国の場合には会計法、地方公共団体の場合には地方自治法に、それぞれ基づくもので、公共工事の競争入札を行う際の落札金額の上限値であり、予定価格を上回る価格での契約は許されない。予定価格は、現在、事前にも事後にも公表されていない。委員会のヒアリング等によると、とりわけ地方公共団体においては、予定価格に関する情報が入札以前に漏洩し、予定価格直下で落札されるケースが多いとの指摘があった。現実には、業者が公表されている積算基準に従って積算しているため、多くの業者の予定価格の予想に大差が生じない場合が多いことは考えられるが、競争が働くなら価格が高止まりすることは考えにくい。談合の存在こそが予定価格直下での落札が多いことの根本原因である。積算基準の公表等により、予定価格はかなりの精度で類推可能であり、事後的にも予定価格を秘密にしておくことのメリットは小さい。漏洩に対する取り締まり体制の脆弱性を理由として、逆に談合その他の不正行為の頻発が放置されている面さえある。こうしたことから、落札の実態を公にして第三者による監視を容易にし、不自然な入札を行いにくくするという考え方は十分考慮に値する。また、予定価格の事後公表には、発注者がコスト縮減努力をしているか、コスト縮減に反することをしていないかについて、納税者等が関心を持ち、監視することを可能とする条件を整えるというメリットがある。公共工事の発注においては、事業の効率的執行の要請の一方、例えば地元業者の優遇というような効率性とは別の要請が強く働くことがしばしばである。公共工事の発注者がこのような立場に置かれていることを考えると、競争性の確保には透明性の一層の向上が不可欠であり、予定価格の事後公表はそのための有力な手段である。なお、予定価格を事後に公表する場合には、予定価格に関する情報が入札以前に漏洩することのないよう、情報管理の徹底に万全を期するとともに、談合その他の不正行為の監視・取締体制の抜本的な強化を図るべきである。また、予定価格が事前に公表されれば、事後公表とは異なり、談合による価格つり上げを助長するとともに、業者の積算努力を損なうとの意見があるが、予定価格の事前公表を行う場合には、予定価格を探るための社会的に無駄なコスト、あるいは不正な活動を防止できるという効果が期待できる。

なお、予定価格は、本来発注者の経費見積りであり、かつ予算上の制約からくる契約価格の上限にすぎないものであるにもかかわらず、予定価格に現状のように重大かつ硬直的な役割を負わせる結果、たとえば、予定価格と落札価格に差が生じることは、予定価格作成がずさんであった証しだと批判されたり、予算を使い残したとして次期の予算査定において減額の根拠とされるというイメージが定着して、経費節減の誘因を発注者から奪っている点にも注意を要する。

エ 低入札価格調査制度及び最低制限価格制度

国の契約制度においては、会計法に基づき、極めて低廉な価格で入札された場合に、履行の確実性に関して調査し、仮に履行が危ぶまれるときには当該入札を排除するという、低入札価格調査制度が採られている。また、地方公共団体の契約制度においては、地方自治法に基づき、低入札価格調査制度のほか、予め定めた最低制限価格以上の価格で入札した入札者のうち、最低の価格で入札した者を落札者とするという、最低制限価格制度が採られている。より低い価格での入札は本来奨励されるべきであり、一定基準額未満の入札を無条件に排除する最低制限価格制度は合理性を欠いている。最低制限価格制度が必要な理由として、発注者側の体制の不備がしばしばあげられる。しかしながら、予定価格の積算、資格審査、指名等の事務が的確に行える発注者であれば、低入札価格調査制度を活用して業者の施工能力を調査することができるはずである。また、低入札価格調査制度については、入札価格が低いことに着目して履行能力の有無につき調査を行うものであるが、「低い価格での入札は好ましくない」という誤ったメッセージを発している可能性がある。

最低制限価格制度にせよ低入札価格調査制度にせよ、工事不履行や不良工事のリスクを回避する観点からは、資格審査の強化、ボンド制度等の適切な活用、施工過程での的確な監督、あるいはCM方式(注)の導入により、将来的には抜本的に見直していくべきと考えられる。

(注)CM方式:Construction Management 発注者との契約に基づき、設計の検討、工程管理、品質管理、費用管理などの全体又は一部について受託した業務を行う方式

オ ランク制及び経営事項審査制度

ランク制とは、各発注者が業者の経営状況や施工能力に関する客観的事項及び主観的事項について審査した結果に基づき、工事の規模に対応するA〜E等の等級に区分して登録し、指名競争の場合に、原則として発注する工事の規模に対応する等級の業者の中から指名する仕組みである。このうち、客観的事項の審査については、許可行政庁が全国統一の基準に基づいて審査する制度として経営事項審査が実施され、これが各発注者において活用されている。こうした仕組みは、競争入札方式において、公共工事の施工能力を確保することに加え、ダンピング等による大手建設業者の市場独占を未然防止することで公共工事の適正な配分を図り、大手建設業者のみに偏重することなく、中小建設業者を保護育成するメリットがあるとの意見もある。しかし、公共工事においては「良いものを安く」を基本原則とすべきであり、中小建設業者の保護育成に関する政策は、公共工事以外の政策によって図られるべきである。他方、現行のランク制では各ランクが工事の金額ごとに輪切りにされているにすぎず、区分が工事の難易度を反映していないことから、施行能力の確保には有効ではない。また、経営事項審査については、完成工事高が重視される結果、完成工事高競争を余儀なくされ、企業の経営戦略を歪める、より技術力が的確に反映されるようにすべきである等の指摘がなされている。公共工事の施工能力を確保する観点からは、むしろ、資格審査の強化、ボンド制度等の適切な活用、施工過程での的確な監督、あるいはCM方式の導入により、将来的にはランク制及び経営事項審査制度の在り方を見直していくべきと考えられる。

カ 履行保証制度等

履行保証制度は、請負契約の確実な履行を担保することを目的とするもので、平成5年12月の中央建設業審議会建議により、工事完成保証人を廃止する方向が打ち出され、金銭的保証を原則とする新たな履行保証体系に移行することとされた。現在、履行保証の手段としては、銀行等の金融機関による金銭保証、履行保証保険、履行ボンド等があるが、履行ボンドについては損害保険会社の参入しか認められていない。履行ボンドによる保証については、銀行等の金融機関の他業禁止の規定の主旨から慎重に検討すべきとの意見もあるが、その主体として銀行等の金融機関を認めないとの考え方には制度的な合理性はなく、このような閉鎖的な考え方は、履行保証市場全体の活性化にとっては阻害要因となっている。また、一般競争入札方式を中小工事にも適用するためには、不良不適格業者の参入を排除する方策を講じる必要があるとの意見がある。現在の履行ボンドは、発注者と受注者が工事請負契約を締結する際に必要となる履行保証措置であるが、入札に参加するに当たって実質的な事前審査としての役割を果たす入札ボンド制度は未だ導入されていない。入札ボンド制度について、その必要性、効果などを十分検討する必要がある。

キ 官公需施策、共同企業体制度その他の中小建設業対策

公共工事等の官公需施策については、官公需法に基づく毎年度の「国等の契約の方針」(以下「契約方針」という。)がある。同法及び契約方針は、直接的には国等の発注に係わる中小企業者の「受注機会の確保」を目的としているにもかかわらず、契約方針においては中小企業向け契約目標額が示され、「中小向け額/官公需総額」の目標比率は、最近10年間以上、39.8〜39.9%の水準で固定されているとともに、同一資格等級区分内の者による競争の確保、分離・分割発注の推進等の施策が掲げられている。このため、これまでの長きに亘る同法の運用の中で、実質的には、同法は、国等に対して無理に中小企業者に発注させる根拠として機能している。加えて、同法は、地方公共団体について、国の施策に準じて施策を講じるよう努めなければならないとしていることから、地方公共団体における地元中小業者優遇の口実として機能している。契約方針においては、地方公共団体に対し、中小企業者の受注機会の増大のための措置を講ずるように要請しているが、それが、行き過ぎた分離・分割発注を促し、さらに行き過ぎた地域要件等を課すことにつながり、公共工事の効率的な執行を妨げる結果となっている。このような地域要件の行き過ぎは本来望ましいものではなく、過度の地域要件は避けるべきものである。

なお、官公需施策には、中小企業者であることによって競争に参加できない不利を是正するという基本的考え方がある。この考え方は、官公需法のみならず同法の根拠である中小企業基本法にまで立ち返るものであるが、上述のような弊害が顕在化している現状に鑑みると、こうした中小企業政策の基本的考え方が過度に浸透することにより、かえって中小企業者の健全な発展を阻害している疑いがある。

また、共同企業体制度は、中央建設業審議会建議によるもので、信用力・融資力の増大、リスク負担の分散、技術力の強化・拡充、工事施工の確実性を確保するためのものとされている。しかし、実際には、地元の中小建設業者への受注配分のため、地元中小建設業者を一定数構成員として含む共同企業体を結成することを指導するような運用が顕在化している。

これらの制度と相まった行き過ぎた中小建設業者向け発注や地域要件の設定によって、いわゆる上請け・丸投げの横行等といった弊害が生じ、公共工事コストアップの原因となっている。

このように、官公需施策や共同企業体制度は、本来の制度の趣旨を著しく逸脱し、結果として地元中小建設業者への工事の優先配分を目的として使われており、逆に真面目に働く中小建設業者の受注機会を奪っている。

(2) 今後の対応

以上を総合的に踏まえれば、委員会は、公共工事に係わる制度としては、予め価格の上下限を設定することなく、ボンド制度等を十分に利用した、総合評価方式を伴う一般競争入札方式の広範な活用が望ましいと考える。このような方向は、公共工事の競争性・透明性を向上させ、公共工事から無駄を省くことで必要な量の公共工事を可能な限り合理的なコストで実施することを可能にし、さらに、財政構造改革への牽引役にもなると考える。このような観点から公共工事に係わる各種制度に関して総合的な検討を行ったのは、本意見が最初であろう。そこで今回は、以下のとおり、公共工事に係わる各種制度について、今後の長期的な検討課題を提起するとともに、短期的に実行すべき当面の改善措置を求めることとする。

ア 自動落札方式による入札・契約制度についての見直し

公共工事の入札・契約制度では、自動落札方式を原則とし、総合評価方式を例外的としている。この点に関して、発注者にとって有利な契約を締結するとの観点から、総合評価方式を始めとする多様な入札・契約制度を積極的に活用するとともに、自動落札方式を採用する場合を限定・明確化していくことを、今後の長期的な検討課題とすべきである。

 当面は、総合評価方式を採用する際に行われる各省庁の長と大蔵大臣との協議について、同協議の廃止、もしくは協議から報告への簡素合理化、あるいは同協議が大幅に迅速化されるよう例えば、処理期間の短縮を図るなどの措置により、総合評価方式の導入を円滑化すべきである。また、総合評価方式を採用する場合には、その審査に当たって必要に応じ技術的能力を有する民間事業者等を活用するとともに、総合評価の結果を公表する等手続きの透明性を確保するべきである。さらに、地方公共団体においても、総合評価方式の導入が可能となるような環境整備を行っていくべきである。

イ 入札方式等についての見直し

公共工事の入札方式は、一般競争入札方式を一定額以上の工事に限定しているが、これに関して、競争性・透明性を高めるため、一般競争入札方式の対象範囲を拡大することを今後の長期的な検討課題とすべきである。

当面は、ロットの大型化により実質的な対象工事の拡大を図るべきである。また、履行保証市場への金融機関その他の民間保証機関の参入については、法令上の位置づけを整理した上で、広く認めていくべきである。

ウ 予定価格制度についての見直し

 予定価格制度に関しては、事前公表も含め、透明性と競争性が最も確保されるような公表時期の在り方について、今後の長期的な検討課題とすべきである。また、予定価格は、決してその価格での落札を「予定」されている価格ではなく、契約の上限価格であることから、その旨を明示する方策(例えば、「予定最高価格」とするなど)についても、併せて検討すべきである。さらに、総合評価方式を導入した場合等においては、全ての契約に関して予定価格を上回る落札は認められないとする硬直的な運用を改め、例外的に予定価格に弾力性を持たせる場合を設ける等の措置を検討すべきである。

 当面は、予定価格の事後公表を積極的に推進していくべきである。その際、積算の妥当性の向上に資する等の観点から、コストの内訳をあわせ公表することについても検討すべきである。

エ 低入札価格調査制度及び最低制限価格制度についての見直し

 低入札価格調査制度に関しては、中長期的には、総合評価方式の導入、資格審査の強化、履行保証市場の活性化等を漸次実現していく過程において、その在り方を見直していくべきである。

 当面は、地方公共団体における審査体制の整備等の条件整備を進め、最低制限価格制度から低入札価格調査制度に移行すべきである。最低制限価格制度については、地方公共団体における審査体制の整備等の条件整備及び低入札価格調査制度への移行の状況を踏まえつつ、廃止の方向で検討すべきである。また、低入札価格調査制度を採用する場合には、調査の結果を公表すべきである。

オ ランク制及び経営事項審査制度についての見直し

 ランク制に関しては、中長期的には、競争性を高める観点から、工事の技術的難易度の適切な反映、多段階に分かれているランクの統合等、ランク制の在り方について見直しを行うべきである。

当面は、技術的難易度に応じて当該等級以外の業者を指名することを積極的に行うとともに、手続きの透明性を確保するためにも、ランク付けや個別項目の生データを含む経営事項審査の結果を公表すべきである。

カ 官公需施策、共同企業体制度その他の中小建設業対策についての見直し

 官公需施策、共同企業体制度その他の中小建設業対策については、行き過ぎた中小企業者向け発注を誘発することで、真面目に働く中小企業者の受注機会を奪うことのないよう、中小建設業を含めた中小企業の高度化、効率化等の観点に立った、より合理的な官公需施策、共同企業体制度等の在り方を、今後の長期的な検討課題とすべきである。なお、前述のような公共工事に係わる各種制度の見直しが相当程度進んだ際には、官公需法や契約方針の在り方の見直しについても、併せて検討課題としていくべきである。ドイツにおいては、入札参加者の地域限定を禁止する制度が設けられている。我が国においても、過度の地域要件を定めることを制限するような制度の在り方について検討がなされるべきである。

当面は、官公需施策に関しては、官公需法の本来の趣旨を再徹底するため、同法の運用面で改善を図っていくべきである。具体的には、公共工事の効率的な実施を常に念頭に置きつつ同法を運用していくことを宣言するべきである。また、たとえば、各発注機関は、分離・分割発注を行う場合にはコスト増加とならないことを前提とすること等の厳正な方針を契約方針に掲げるとともに、契約方針において、地方公共団体に対し、中小企業者の受注機会の増大の名の下に行き過ぎた施策がとられないよう要請すべきである。また、共同企業体制度の運用に関して、制度の本来の趣旨を周知徹底し、入札・契約の手続の透明性を確保していくべきである。さらに、地元中小建設業者への受注配分の弊害のあらわれのひとつとして、いわゆる上請け・丸投げがある。上請け・丸投げの排除を図るため、実態調査の実施、発注者支援データベースの活用等による入札・契約手続の早い段階からの配置予定技術者の確認、施工体制台帳の活用やその情報公開の検討、その他実効ある排除措置の検討等の措置を講じるべきである。


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