4 情報・通信
情報・通信分野では、第1次意見では電気通信分野、第2次意見では放送分野を中心に意見を述べた。個別事項に関する評価は以下に述べるが、全体として、情報・通信分野、特に、電気通信分野では、第1次意見で述べた総括的な規制緩和意見に沿って緩和措置が実施されており、この3年間で最も規制緩和が進んだ分野の一つである。
さらに、緊急経済対策においても、情報・通信分野の規制緩和は柱の一つとして取り上げられており、委員会意見に関する事項についても、再改定計画よりもさらに踏み込んだ緩和措置が盛り込まれるなど、今後とも着実な緩和が実施され、一層の成果が上がることが期待される。
通信分野については、昭和60年の第1次電気通信改革以来の懸案であったNTTの再編成に一応の区切りが打たれた。電気通信事業の規制緩和とNTTの在り方の見直しとを、同時に、かつ全面的に進めるとの委員会の当初の考え方からすると、今回の持株会社方式でのNTTの再編成に関しては、不完全な結果に終わったと言わざるを得ない部分はある。しかしながら、第1次意見を出してから約2年が経過した現在、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)及び日本電信電話株式会社法(昭和59年法律第85号。以下「NTT法」という。)の大幅な改正が行われ、長距離、地域、国際という業務区分を超えた競争が起き、料金の低廉化が急速に進むなど、委員会意見に沿った規制緩和が実行に移され、着実な成果を上げつつあることは事実であり、これを評価する。今後とも着実な緩和の実施が必要である。
放送分野については、衛星放送のみならず、地上波も含めたデジタル化に向けた作業が進行中であり、従来の事業環境がまさに一変しようという時期に差し掛かっている。昨年の第2次意見は、まさに、こうした環境変化に規制緩和の側面から対応するためのものであった。受信料制度を根幹とするNHKや、県単位の放送対象地域の中で安定した秩序を保っている民間放送局は、放送の多メディア化や通信との融合が進む中で、否応なく対応を迫られることとなる。委員会意見に基づく規制緩和を推進する中で、こうした環境変化への対応が進むことを強く要望する。
さらに、情報・通信分野の規制緩和は、通信と放送の融合を含め、情報・通信に携わる事業に関する規制緩和に止まるものではない。情報・通信を活用する、あらゆる産業や行政サービス、さらには個人の生活に関する規制緩和をも目指すものでなくてはならない。この観点からも、情報・通信分野における着実な規制緩和の推進が必要である。
【第1次意見及び第2次意見の実施状況】
(1) 通信分野
ア 電気通信事業の規制緩和
上述のとおり、電気通信事業に関しては、全般に、委員会意見に沿った形で規制緩和が進められている。
具体的に例をあげると、まず、参入規制については、電気通信事業法の参入許可基準のうち需給調整条項として機能する恐れがあるとされた、いわゆる「過剰設備防止条項」が前通常国会において、法律から削除された。これは、運輸分野その他における需給調整条項の削除の先駆けとなるものであり、高く評価する。
国際・国内、長距離・地域等の業務区分規制が存在しないことが明確化されたことにより、従来の区分を超えた業務展開が促進されつつあること、料金規制についても、移動体通信料金の届出化(昨年12月)に引き続いて、緊急経済対策で、個別料金認可制を原則廃止し、届出制に移行するとともに、インセンティブ方式を導入することとし、次期通常国会に法案を提出することとされた。これらによって、競争が促進され、利用者に目に見える形で緩和のメリットが還元されつつあることも同様に評価する。
その他、国内・国際の公専公接続の完全自由化(国内は昨年10月実施済。国際は本年中に実施予定)、第一種電気通信事業の外資規制撤廃(平成10年1月実施予定)、国際電信電話株式会社法の廃止(次期通常国会に法案提出予定)、第二種電気通信事業に係る緩和(昨年12月実施済。なお、一層の緩和について緊急経済対策に記載)等、委員会意見に沿って規制緩和が実施されつつある。
その一方で、公平な相互接続ルールが未整備であることが指摘されていた電気通信事業法についても、大幅な規制緩和とあわせて、前通常国会において法改正が行われ、本年11月に施行された。この点も委員会意見に沿ったものであり、これを評価する。
イ NTTの在り方
NTTの在り方については、第1次意見で「独占企業体のNTT を、真の競争原理が働くような形態にすることが望ましい」と述べ、その後も、委員会メッセージや昨年12月の小委員会報告で早期決着を求めた。
昨年12月に持株会社方式での決着が図られたことに対しては、第2次意見で「公正有効競争が確保され得るのかについては強い懸念がある」とし、また、再改定計画に対する見解(本年3月)では「当委員会が当初想定していたものであるとは言えない」とした上で、NTT法改正法案に、東西両地域会社による相互参入を可能とする条項が盛り込まれることとなったことを踏まえ、「地域通信網においても直接・間接の競争が起き得る可能性が生じたことに期待」し、「真の公正有効競争関係が確保されていくよう、今後とも強力に監視していく必要がある」と表明するなど、一貫して、公正有効競争確保のための監視を続けてきた。
このように繰り返し表明してきたとおり、持株会社方式でのNTTの再編成は、公正有効競争確保の観点からは、委員会意見の趣旨とは異なるものである。また、この結果、NTTに対する非対称規制を残さざるを得ず、規制緩和の推進も、その面では不徹底なものとなった。
持株会社方式での再編成については、既にNCCとNTTとの間に相当の競争が生じている長距離通信分野においては、持株会社の傘下であるとは言え、再編後の長距離会社が商法上の株式会社とされること、改正された電気通信事業法において、指定電気通信設備との接続に関する接続約款による公正性の確保が図られたこと、さらに「日本電信電話株式会社の事業の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する基本方針」(本年12月郵政大臣告示。以下「基本方針」という。)においても、長距離会社と地域会社との間に人的・物的・資金的なファイアー・ウォールが定められたことなど、一定の公正競争確保のための措置が講じられていると考えられる。
しかし、依然としてNTTによる独占的状況が続いている地域通信分野においては、再編後の特殊法人たる東西の両地域会社が、持株会社の下で一体的に経営される懸念を拭いきれない。改正されたNTT法においては、両社による相互参入が可能とされてはいるものの、基本方針には両社間のファイアー・ウォールについて規定されておらず、基本方針に合わせて公表された事業者等の意見に対する郵政省の考え方において「地域会社間の役員兼任については、(中略)地域会社間における競争の促進を図る観点から、一定の独立性を確保することは当然のことであると考えており、再編成後の状況を注視していく考えである」及び「基本方針に定めた公正な競争を確保するための条件等の実施状況について、郵政省として十分注視していく考えであり、必要に応じ、持株会社に対し報告を求め、これに対して関係事業者が意見の提出を行う機会を与えるなどの措置を講じる考えである」とされているに過ぎない。
地域会社を東西に分割した目的は、分割当初から、両社間で、少なくとも間接競争が行われ、将来的には両社が互いの業務区域に相互参入しあうことによって、地域通信市場における独占状態を解消することにある。持株会社の傘下で、しかも、役員が兼任し職員が交流し得る会社間、資金や資材を共同で調達し得る会社間で、本格的な競争が行われるとは到底考えられない。
委員会としては、このような考え方に基づき、長距離・地域ともに、公正かつ有効な競争を促進していくことが極めて重要であることを改めて表明し、今後とも、その実現のために断固たる措置が講ぜられることを強く求める。
(2) 放送分野
放送分野に関しては、昨年の第2次意見で規制緩和事項を述べた。緩和が既に実施された事項は多くないが、現時点での推進状況及びそれに対する委員会の評価は次のとおりである。
ア 放送対象地域の広域化
放送対象地域については、再改定計画において「周波数利用技術の開発動向、視聴者ニーズ、事業者の要望等を踏まえつつ、周波数事情の許すところから、広域化する」とされたところであるが、本年度は、放送用周波数の有効利用技術の研究に着手されている。今後、2000年以前に地上波放送のデジタル化が開始できるように、チャンネルプランや制度整備に向けた検討が進められているが、この中でも、再改定計画に沿った広域化の実施に向けて検討を行っていくべきである。
イ NHK・BS放送の受信料制度の見直し
NHKのBS放送の地上波と一括した受信料制度を見直し、有料スクランブル放送化を図ることについては、再改定計画においては「NHKのBS放送のスクランブル化については、デジタル化、多チャンネル化が急速に進展する衛星放送の動向を踏まえ、NHKに期待される役割やデコーダ設置の負担等視聴者に及ぼす影響を勘案しつつ実施について検討する」とされたところである。本年度は、この問題も含めた今後のBSデジタル放送の制度設計について、NHKの役割、民間事業者の動向、デコーダの開発状況を勘案しつつ、検討が進められている。さらに、郵政省は、NHKに対しては、再改定計画の実施について検討を促すとともに、制度設計に向けてその検討結果を明らかにするよう求めているところである。今後とも、再改定計画に沿った着実な検討を求める。
ウ CSデジタル放送の規制緩和
衛星のトランスポンダ料金に係る総括原価主義の廃止と有料放送の視聴料金の届出制の導入については、前者は、緊急経済対策で、次期通常国会に法案を提出するとされており、後者は、本年10月に実施済である。これらについては評価する。
外資規制については、再改定計画において「今後の放送の多チャンネル化、グローバル化の進展を注視しながら、他の放送メディアや諸外国の外資規制との整合性を確保しつつ検討する」とされたところであるが、本年度は、次期通信衛星であるJCSAT4への参入希望にあわせて外資規制緩和も含めた制度全体に関するヒアリングを実施するなど、検討が進められている。今後とも、再改定計画に沿った着実な検討を求める。
マスメディア集中排除原則の緩和については、緊急経済対策において、複数局支配の禁止として制限される出資制限の緩和を本年度中に実施することと、一委託事業者が行うことのできるテレビジョン放送に係る12番組以内という番組数の制限を本年度中に廃止し、4トランスポンダ以内では何番組でも可能とすることが盛り込まれた。これらの緩和は、多チャンネル放送の提供をより容易にするものと認められる。
エ CATVの外資規制の緩和
CATVの外資規制については、第一種電気通信事業を兼営する事業者について、外資規制を撤廃することとされており、上述の第一種電気通信事業の外資規制の撤廃とあわせて、平成10年1月に実施される予定である。これについては評価するとともに、再改定計画に記載されているこれ以外の外資規制の緩和について、緊急経済対策に沿って、引き続き検討し、早急に結論を得るべきである。
(3) 周波数割当におけるオークション制度の導入
周波数割当については、オークション方式導入の是非を含む周波数割当方式の在り方や周波数の有効活用方策等について論じた「電波資源の有効活用方策に関する懇談会」報告(本年2月)が提出され、再改定計画において「周波数割当手続きの透明性の一層の向上を図る」とともにオークション方式について「将来の新システムにおける導入の可能性等を引き続き検討する」とされたところである。本年度は、欧米をはじめとする諸外国に関する情報収集を行うなど調査・検討が進められている。今後とも、再改定計画に沿った着実な検討を求める。
(4) 道路占用等の規制
電気通信事業者による道路占用許可手続の一層の簡素化については、本年3月に事務連絡が発出された。CATV事業者による道路占用についても、昨年6月に通達が発出され、第一種電気通信事業者に準じて許可を与えること等の措置がとられた。
下水道への第三者による光ファイバー等の設置については、それを可能とするための下水道法改正が行われ、昨年12月に施行された。
これらの規制緩和は、情報・通信分野におけるインフラ整備の促進に有効なものであり、委員会意見に沿って緩和が実施されたことは評価する。今後とも、推進計画に沿って、一層の緩和を図るべきである。
(5) 社会・行政の情報化
書類の電子データによる保存、申告・申請手続の電子化・ペーパレス化については、書類保存、申告・申請手続に要する国民負担の軽減、事務処理の効率化の観点から、その積極的な推進が求められる。政府は、「行政改革プログラム」(昨年12月閣議決定)、「申請負担軽減対策」(本年2月閣議決定)、再改定計画及び緊急経済対策にその推進を盛り込んできており、電子データによる保存については、原則として本年度末までに所要の措置をとること、また、手続の電子化・ペーパレス化については、原則として平成10年度末までに可能なものから早期に実施することとしている。
以上のように、政府全体として積極的な取組みが行われており、個別事項についても、順次実施されてきているが、今後とも、累次にわたる閣議決定等に沿った着実な実施を求める。さらに、インターネットの急激な普及、電子商取引の実用化の動きなど、情報化の進展を巡る動きは急速であり、また、情報通信技術を活用した行政サービスの向上への要請が一層強くなっていることから、現行の「行政情報化推進基本計画」(平成6年12月閣議決定)を改定し、行政の情報化を一層推進することが必要である。
マルチメディア活用による遠隔診療については、医師法第20条(無診療治療等の禁止)の解釈として、初診時を原則として除き、遠隔診療を認める旨の解釈通知が、本年12月に発出される予定である。これを評価する。