運 輸

運輸分野は、国民の日常生活に密接に関連するものであり、物流コストの低減、旅客輸送サービスの向上等のため、規制緩和による競争促進を図っていくことが重要である。このような観点から、第1次意見では、車検、トラック、内航海運、旅客鉄道の価格設定、第2次意見では、航空、タクシー、バス、旅客鉄道の参入規制、貨物鉄道を取り上げ、本年度には港湾運送事業に取組む等、運輸の重要課題に網羅的に取り組んだところである。

その結果、従来、運輸行政の根幹をなしてきた需給調整規制を原則として目標期限を定めて廃止する等、以下に記述されるような画期的な規制緩和の実施が決定されたことは評価できる。また、個別項目の現在の実施状況は、以下のとおりとなっており、再改定計画で明示されたスケジュール通り、着実に実行されている点も評価できる。

これらの規制緩和は、交通運輸分野の経済活動の一層の効率化、活性化を促進することにより、利用者利便を向上することが大きく期待されるため、運輸政策審議会での審議の迅速化を図る等により、今後とも着実に規制緩和を実施していくべきであるとともに、残された様々な規制の緩和について、委員会意見の指摘事項以外の事項についても、前向きに対処していくことが望まれる。また、需給調整規制の撤廃に際して条件となる安全性や不採算サービスの維持、競争環境の確保等のための対処策が、競争の促進と矛盾しない形で策定されることを望むものである。さらに、需給調整規制の撤廃の過程においても、制度の運用の弾力化を積極的に進めるべきである。

【第1次意見及び第2次意見の実施状況】

(1) 車検制度の見直し

自動車の検査、点検制度については、6か月点検の義務付けの廃止、定期点検項目の簡素化等によりユーザーの負担軽減が図られたばかりでなく、前整備・後検査の義務付けの廃止等の規制緩和により、整備業界へ本格的な競争原理が導入された。これにより、車検時の点検整備メニューが多様化し、指定整備事業における点検の際にユーザーが検査の合否の情報を得てユーザー自らが整備内容を選択できるサービス、短時間で車検整備を実施するサービス等様々な新たなサービスが実施されるようになってきている。この結果、ユーザーの選択肢は大きく拡大し、従来、不透明との批判があった点検・整備内容の透明化に寄与するとともに料金の低廉化をもたらしている。

また、車検期間及び点検・検査項目について、自動車技術の進歩等に応じて、透明で分かりやすいプロセスで不断に見直すとの観点から、その判断材料となるデータについて、透明性を確保した形で、継続的に監視を行う仕組みが設けられている。現在、この仕組みに基づき、トラック等の検査証の有効期間について、車種別、車齢別等の自動車不具合発生状況等に係るデータの集中分析が行われている。この分析結果については、今後、フォーラム等において広く意見を求めた後、本年度末に公表されることとなっているが、安全性等の科学的なデータと車検期間との関係を国民に分かりやすい形で十分に説明することが必要であり、この結果に応じた適切な措置を講ずべきである。

(2) トラック事業の参入・価格規制の見直し

トラック事業については、物流サービスの利用者の視点に立ち、市場原理を活用した事業者による自由な事業展開が図られることが基本である。このような観点から、営業区域については、経済実態等、道路状況等に対応して、平成12年度までに、経済ブロック単位に段階的に拡大することとなっており、最低車両台数規制についても、平成12年度までに全国一律5台となるよう段階的に引き下げていくこととされており、着実に実行に移されているところである。また、運賃・料金規制については、多様な輸送形態に対応した市場原理に基づく運賃の設定を促進するため、原価計算書の添付を不要とする範囲が拡大されてきている。

このようにトラック事業の規制緩和は、着実に実施されているところであるが、今後は、原価計算書の添付の一切の廃止や事後届出制その他のより自由な運賃・料金規制にする等の一層の規制緩和を検討すべきである。

(3) 内航海運業の船腹調整事業及び運賃協定の見直し

内航海運の船腹調整事業については、荷主が長期間にわたり積荷を保障する船舶には、原則ノースクラップで建造を認める長期積荷保証船の範囲を拡大することとされ、鉄鋼、石灰石について既に実施に移されている。また、モーダルシフトの担い手となるコンテナ船、RORO船について、遅くとも平成10年度末までに船腹調整事業の対象外とするとされている。さらに、その他の船舶については、荷主の理解と協力を得ながら4年間を目途に所要の環境整備に努め、その達成状況を踏まえて同事業への依存の解消時期の具体化を図ることとするが、同事業の解消の前倒しにつき中小・零細事業者に配慮しつつ引き続き検討されることとなっている。これらについては、日本内航海運組合総連合会が平成8年度に環境整備計画を作成し、内航事業者の経営基盤強化や輸送の効率化について検討を進めているところであるが、これを受け、本年度に内航海運組合法が改正されるとともに、運輸省においても本省及び各地方運輸局において環境整備推進のための協議会が設置される等、着実に環境整備計画が実施されているところである。

また、運賃協定については、北海道定期航路運賃同盟等の4つの運賃協定が既に廃止され、現在残っている内航タンカー運賃協定等の2つの運賃協定については、平成10年度末までに廃止することとされている。優越的地位の濫用防止問題に関しては、運輸省と公正取引委員会との間の連絡会議等において議論が行われているところである。

今後は、先行きに関する不透明感を払拭する観点からも、できるだけ短い一定の期間を限って転廃業者の引当資格に対して同総連合会が交付金を交付する等の仕組みの導入により船腹調整事業の早期解消が行われるよう、早期に結論を得るべきである。

(4) 鉄道の参入・価格規制の見直し

旅客鉄道事業に係る需給調整規制については、平成11年度に廃止することとされ、現在、運輸政策審議会で平成10年春頃の答申を目指し、需給調整規制の廃止に向けて必要となる環境整備方策等について、審議が進められているところである。また、旅客鉄道運賃については、事業者の自主性の拡大、経営効率化インセンティブの強化、規制コストの縮小等を目的として、ヤードスティック方式の強化、基準コストの計算方式・計算結果の公表、公表データによる基準コストの算定等の工夫が施されて総括原価方式の下での上限価格制が導入されたところである。

また、貨物鉄道に係る需給調整規制については、概ね5年後を目標とし、国鉄改革の枠組みの中で日本貨物鉄道株式会社の完全民営化等の経営の改善が図られた段階で廃止することとされ、現在、徹底した効率化等による業務の改善等が図られているところである。貨物鉄道運賃についても、物流市場の動向を踏まえ、より一層の機動的・弾力的な運賃設定が可能となるよう総括原価方式の下での上限価格制が既に導入されており、需給調整規制が廃止される段階で届出制に移行することとされている。

運輸政策審議会の審議については、迅速化を図り、委員会意見の趣旨に沿った結論をできるだけ早期に得ることを求める。

(5) 国内航空運送事業の参入・価格規制の見直し

国内航空運送事業の参入規制については、既にダブル・トリプルトラック化基準が廃止され、本年の羽田空港の新C滑走路の供用開始に伴う新規発着枠の配分の際には、航空会社が自由に路線設定ができる自由枠が導入されるとともに、新規発着枠の既得権益化を防ぐ観点から、発着枠の有効期限制が導入された。また、価格規制についても幅運賃制が既に導入されている。さらに、需給調整規制については、平成11年度に廃止することとされ、現在、運輸政策審議会で平成10年春頃の答申を目指し、需給調整規制の廃止に向けて必要となる生活路線の維持方策等の環境整備方策等について、上限価格制への移行の検討も含めて、審議が進められているところである。また、空港制約のある空港において、一層の競争原理を導入する観点から、既存の発着枠の流動化を図ることの可能性の検討、競争の促進に資する透明性のある方法での発着枠配分ルールについての検討が行われている。

運輸政策審議会の審議については、迅速化を図り、委員会意見の趣旨に沿った結論をできるだけ早期に得ることを求める。

(6) タクシー事業の参入・価格規制の見直し

タクシー事業の参入規制に関しては、事業区域規制について、3年以内にほぼ半減することとされ、既に約1900区域から約1400区域に削減されている。また、最低車両台数規制について、東京の60両、大阪・名古屋・横浜の30両を10両に縮減する等の措置を講ずることとされ、既に実施に移されている。また、運賃・料金規制については、ゾーン運賃制、初乗距離短縮運賃が既に導入されている。さらに、需給調整規制については、需給調整基準を段階的に緩和するとともに、安全の確保、消費者保護等の措置を講じた上で、遅くとも平成13年度までに廃止することとされ、その前倒しに努めることとされている。これを受け、本年度、需給調整基準の段階的緩和措置として、過去5年間の実績に基づき算出された基準車両数に1割上乗せする措置が既に実施され、東京では本年度末に30数年ぶりに新規免許が出る予定である。さらに、上限価格制を検討の上、遅くとも平成13年度までに措置することとされ、その前倒しに努めることとなっている。これらについては、必要となる環境整備方策等について、現在、運輸政策審議会で審議が行われているところである。

運輸政策審議会の審議については、迅速化を図り、委員会意見の趣旨に沿った結論をできるだけ早期に得ることを求める。また、需給調整基準やゾーン運賃幅のさらなる緩和を検討すべきである。

(7) バス事業の参入・価格規制の見直し

貸切バス事業の参入規制に関しては、事業区域規制について、3年以内に市郡単位等から都府県単位に統合することとされ、逐次、実施に移されている。また、最低車両台数規制について、最大10両となっている車両数を最大5両に縮減することとされ、既に実施に移されている。さらに、需給調整規制については、当面、一定の実働率以上の場合には増車を認めることとし、安全の確保、消費者保護等の措置を確立した上で、平成11年度に廃止することとされている。また、価格規制については、需給調整規制の廃止に併せて、届出制に移行することとされている。これを受け、一定の実働率以上の場合に増車を認める制度が既に実施に移されるとともに、需給調整規制の廃止に向けて必要となる環境整備方策等について、現在、運輸政策審議会で審議が行われているところである。

また、乗合バスの参入規制については、生活路線の維持方策の確立を前提に遅くとも平成13年度までに廃止することとされ、また、価格規制については、需給調整規制の廃止の際に、上限価格制を検討の上、措置することとなっている。これを受け、需給調整規制の廃止に向けて必要となる環境整備方策等について、現在、運輸政策審議会で審議が行われているところである。

運輸政策審議会の審議については、迅速化を図り、委員会意見の趣旨に沿った結論をできるだけ早期に得ることを求める。

【本年度取り上げた事項】

港湾運送事業に係る規制の見直し

港湾運送事業は、終戦後の無規制の状況下での中小事業者の乱立による供給過剰、不適格事業者の出現、秩序の混乱等の状況を踏まえ、安定的な港湾運送の確保、安定的な労働関係の確立、悪質な労務供給事業者の排除を図るため、昭和34年、議員修正により港湾運送事業法が改正され、事業免許制、料金認可制が導入された。

 また、港湾労働に必要な労働力の確保と港湾労働者の雇用の安定を図ることを目的として、港湾労働法が昭和40年に制定され、事業規制と相まって、港湾の安定運営や港湾労働関係の安定が図られてきた。

 そもそも、港湾運送事業は、貨物の船舶への積み込み及び取り卸しを目的に労働力を供給するという側面が強く、本来的に労務供給事業的性格を有する。また、この労務供給事業的性格に加え、業務量の日別の波動性が大きいという実態があるため、過去の歴史に見られるように労務手配師が介入する余地が大きいという側面がある。さらに、陸と海の物流の結節点である港頭地区という限られた公共空間で営まれる事業であることから、混乱が生じた場合、ユーザー(船社・荷主)は代替措置を講じにくく、港湾運送の不安定化が我が国の貿易及び経済活動に深刻な悪影響を与えることとなるという性格を有している。

 港湾運送事業はこのような特殊性をもつため、各国とも形態は違うものの、港湾運送の安定化を図るためのシステムを有しており、我が国においては、前述の港湾運送事業法の参入規制、価格規制、港湾労働法がこの役割を担うこととされてきた。

 しかしながら、港湾運送事業法の参入規制、価格規制は、一方では、次のような弊害を引き起こしており、我が国の港湾の効率化、活性化を阻害する要因となっている。すなわち、第一に、新規参入が自由でないことから、事業者間の競争が生まれにくく、船社、荷主のニーズにあったサービスが提供されにくくなっている。第二に、港湾ごと、業務区分ごとに細分化された免許制によって非効率な多数の中小事業者が維持されることとなり、これらの港湾運送事業者の規模の拡大による事業の効率化を困難にしている。第三に、免許制によって自ら常傭労働者を抱える多数の中小事業者が存在し、企業外労働者の活用の仕組みも不十分なため、日別の波動性に十分に対応することができなくなっているとともに、船社、荷主の需要に応じた弾力的なサービスを提供するための効率的な就労体制を組むことが困難となっている。

 現在、我が国においては、経済活動の基盤である物流の効率化の必要性が強く指摘されており、港湾においても、効率性の向上、船社のニーズに沿ったサービスの確保への要請が高まっている。前述の港湾運送事業の参入規制、価格規制がもたらす弊害やこのような我が国の港湾運送に求められている課題の解決のためには、現行の事業免許制(需給調整規制)を廃止し許可制に、料金認可制を廃止し届出制にすべきである。また、事業区分及び限定制度の簡素化並びに港ごとの免許制度の見直しもあわせて行うべきである。このような改革に伴い、港湾運送事業に関わるその他の諸規制についても徹底した見直しを進めるべきである。同時に免許制廃止後の効率的な経営や就労体制の確立、安定的な労働関係の確保、悪質な労務供給事業者の参入の防止を図り、港湾運送の安定を達成するため、以下に掲げる点についての実施や検討が必要である。

 なお、港湾運送事業においては、港湾運送の効率化(コスト削減、サービス向上)を求めれば、港湾運送の安定化(労働関係の安定化等)が損なわれるという懸念もあるため、この2つの目標をどのようにバランスをとって解決するかという視点も重要である。委員会のヒアリングにおいても、荷主サイドからは、港湾運送の安定化が強く要望され、また、船社サイドからは、規制緩和による港湾運送の不安定化の受忍限度については明確な回答がされていない。したがって、港湾運送事業の規制緩和に当たっては、港湾運送事業のユーザーである船社、荷主がこの点に関しどう考えるかという姿勢を十分に把握したうえ、推進していく必要がある。

@ 安定した労働関係の確保を前提とした効率的な経営、就労体制の確立

 船社、荷主のニーズに対応した弾力的なサービスの提供を可能とする効率的な経営、就労体制を確立するため、常傭労働者の雇用の義務付けを維持しつつ、事業者の事業規模(労働者数)を拡大するため、使用者責任を明確にした共同受注、共同就労体制の確立、事業者の集約、協業化の促進、労働者保有基準の引き上げを図るべきである。また、日別の波動性に対応するための企業外労働者を活用する方策として、新たに、港湾運送事業者間で港湾労働者の融通が円滑にできるような仕組みを確立すべきである。

A 悪質な労務供給事業者の参入の防止

 悪質な労務供給事業者の参入を防止するため、港湾運送事業者による常傭労働者の雇用の義務付けを維持するとともに、労働者保有基準の引き上げをはじめとする参入基準の見直しをすべきである。

B 免許制度の見直しに当たって考慮すべき事項

 港湾運送事業が、先に述べた特殊性から、過去混乱の歴史を経験したという事実に鑑み、混乱が生じることのないよう、手順を踏んで、段階的に規制緩和を進める必要がある。また、コンテナ荷役と在来荷役、6大港等と地方港では、荷役の形態、荷役量、事業者等に差があるので、規制緩和の推進や効率的な就労体制の確立に当たっては、内容あるいは実施の時期に差を設けることも検討すべきである。

 なお、規制緩和の推進に伴い、港湾荷役の秩序の混乱等の問題が生じることも予想されるため、緊急調整措置の導入等その防止方策について検討すべきであるとともに、規制緩和の結果として、労働災害の増加、労働社会保険への未加入、その他労働環境の悪化が生ずることがないよう、労働関係法令等の十分な対応が確保されるべきである。

C 料金認可制の見直しに当たって考慮すべき事項

 中小企業が多い港湾運送事業者と大企業の多い船社、荷主との力関係の差を背景とした過度のダンピングは、労働環境の悪化等につながることから、料金変更命令、船社、荷主への勧告制度等その防止方策について検討すべきである。

 また、現在、関係当事者の拠出により、労働者の福利厚生等が図られているが、規制緩和後も、関係者間で継続的な取組みがなされることが重要である。

D 規制緩和の推進の体制等

 港湾運送事業の規制緩和は、運輸省、労働省等の関係行政機関、港湾運送事業者、労働組合、船社、荷主等の関係者が協力して進めなければ実行は困難である。したがって、規制緩和を推進するに当たっては、数々の検討課題について、関係者の理解を深めるために、議論の場を設けることが必要である。政府においても、運輸省、労働省をはじめとする関係省庁が協力し、政府全体として整合性のとれた政策として実行すべきである。また、船社、荷主は、港湾運送の効率化、安定化のためには、効率的で安定した就労体制の確立が不可欠との認識を持ち、従来のように労働問題から逃避することなく、自らの責務をも自覚するという姿勢がなければ、この改革は進展しないという認識を持つべきである。

E 我が国港湾の効率化・活性化のための取り組み

我が国の港湾の効率化・活性化を図り、国際競争力を強化していくために、政府においては、国際ハブ港湾における大水深、高規格コンテナターミナルの重点的整備、港湾荷役の施設使用料の抑制、引き下げ、入出港に係る諸手続きの簡素化、情報化についても有効な施策を策定し、実施すべきである。


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