6 エネルギー
エネルギー分野の規制緩和は、平成6年度のガス事業法(昭和29年法律第51号)の改正に始まり、電気事業法(昭和40年法律第170号)の改正、特定石油製品輸入暫定措置法(以下「特石法」という。)の廃止、高圧ガス取締法(昭和26年法律第204号、法改正によって、「高圧ガス保安法」に題名を変更)及び液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(昭和42年法律第149号、以下「液石法」という。)の改正と、次々と実行に移されてきた。そのため、従来、エネルギー・セキュリティや需要家保護等の観点から規制下に置かれてきた事業分野において、新規の事業者の参入が始まり、本格的な競争が始まりつつある。この代表例が、特石法廃止後の石油製品販売の競争であり、電力卸発電事業分野における新規事業者の参入による競争である。
一方、制度は改定されたものの、構造的な改善に時間がかかるなどの原因で、成果が限定されている分野がある。例えば、LPGの販売についての競争などは、高圧ガス保安法と液石法の改正の効果を暫く検証して見る必要がある。また、新制度の内容が諸般の事情で限定された分野では、一層の緩和が行われないと期待される成果は得られない。こうした分野として、大口ガス事業や特定電気事業の要件緩和がある。
これまでのエネルギー分野をめぐる改革努力は、戦後数十年の体制を大きく変える改革ではあるものの、既に厳しい競争下にある世界のエネルギー産業の状況と比べると、依然としてその産業構造とコストに大きな乖離がある。従って、石油業界、電力業界、ガス業界については、次のステップとして、大きな産業構造の根幹に関わる規制、制度そのものの全面的見直しが必要とされ、それぞれが審議会での検討の俎上にあげられている。
委員会としては、電力事業については過去3年間、長らく続いてきた十電力による地域独占を見直し直接競争をこの分野に導入することが、業界の体質改善に役立ち、消費者利益にかなうものと考え、その方向で検討を進めてきた。本年度は、電力事業のさまざまな側面において競争的な市場を実現するため、21世紀に向けたグランド・デザインを描くことをテーマとして検討を進めた。
【第1次意見及び第2次意見の実施状況】
本年度は、電力事業について集中的に検討を進めたため、広範なエネルギー分野における個別の論点について、本意見で全てを述べることはできないが、第1次意見及び第2次意見の以下の項目について、改めて着実な実施を期待したい。
(1) 電力事業の参入規制の見直し
発電部門における卸電力事業の自由化について、第1次意見において、「市場原理に基づく透明な入札が行われ、供給条件が恣意的に決められるなど、実質的に参入が妨げられることのないようにする必要がある」と指摘した。実際に、2年度にわたり効率の高い発電事業者の参入が実現され、発電部門における競争が実現しつつあることは評価できる。現在進められている発電事業の自由化論議が進められ、一層の自由化につながることを期待する。
電力・ガス料金のヤードスティック査定については、第1次意見において、「各社の経営実態、発電コスト等の情報公開が適切に図られ、各社間の間接競争を促進するとの狙いが実現される必要がある」との意見を述べた。査定を実施したのは未だ1回のみで、その効果を計ることは難しいが、業者間の間接的競争による効率化努力を促すよう、経営実態やコストの情報公開を一層適切に図るという意見の趣旨が実現されるよう、引き続き努力することが求められる。
(2) ガソリンの輸入・販売・保安に関する規制緩和
特石法廃止後の石油製品輸入を活性化するため、新規輸入者に対する支援措置について、第1次意見において取り組みを促した。その結果、ガソリン等の輸入に対する新規参入を実質的に阻止することのないよう、備蓄制度等の支援措置を行っていることは評価するが、さらに措置が効果的であるかどうかの評価を行い、不当に既存事業者に有利にならないようにすべきである。
ガソリン等販売店の新規開設時の供給元証明について、競争的な新規参入を阻害する懸念があるため、第1次意見において廃止を求めた。これに対し、石油審議会石油部会石油流通問題小委員会における提言を踏まえて、本年度中に廃止するための措置が進められていることを評価するとともに、措置の早期実現が図られるよう求める。
セルフ方式の給油所については、第1次意見において「遅くとも平成9年度中に結論を得るべきである」と提言した。これについては、本年11月に調査検討委員会において、各種対策を講じた有人セルフサービス方式の給油取扱所の安全性が確認されたところである。当該調査検討委員会の結論を踏まえ、有人セルフサービス方式の給油取扱所の導入のため、できる限り早期に導入のための所要の措置を講ずるべきである。なお、第1次意見で述べたとおり、石油製品流通の合理化を進めるため、セルフ方式の給油所について、保安規制は必要最小限に止めるべきである。
(3) ガス供給の自由化
大口ガス供給の許可要件については、第1次意見において「大口需要家への供給に関する規制緩和において示された方向性に沿った措置を一層推進する」ことを求め、現在、政府において改定計画で約束した評価に着手している。参入の可能性を拡大する方向で、現在都市ガス事業構造改革研究会において行われている見直しを進めるべきである。
(4) 供給における競争条件の整備
特定供給の許可につき、第2次意見において、電力事業との競争強化を念頭に弾力的な運用を行うことを求めたが、自家発電者の一部に硬直的な判断により逆に許可要件を厳しく判断されるようになったとの声もあり、特定供給の範囲をできる限り広く認めるという委員会意見の趣旨を再確認し充分周知すべきである。
(5) 自己託送の実施
第2次意見で制度化による実施を促した自己託送については、許可要件が各電力会社より明示された。この自己託送は、本意見として後述する小売自由化にあたっての小売託送の制度的確立の基本的な前提となるものである。しかしながら、具体的に各条件を評価すると、以下の点で、需要家の中には活用ができない分野もあるなど、条件の緩和を求める声がある。電力会社には、以下の点につき、速やかな改善が求められる。
【本年度取り上げた事項】
電力事業の規制緩和は、これまでは漸進的に行われてきた。委員会においても、長期的な自由化の方向を見定めながら、特定供給、特定電気事業、自己託送の実現などの既存の仕組みを活用したステップ・バイ・ステップの進展を目指してきた。しかし、今回、委員会が射程に入れる21世紀を見据えれば、欧米諸国の大勢が小売供給も含めた自由化であることは明らかである。また、電力が産業や生活の基盤インフラであるが故に、高コスト構造の一つの原因として存在することを考慮すると、漸進的な改革にとどまることなく、根本的な構造改革を早急に進めるべきである。
本年度の議論の焦点は、発電、送配電、供給の領域ごとに競争の可能性を探ることにより、これまでの地域独占による一貫供給体制から、全体として競争的な産業体制への移行を目指す点にある。検討すべき具体的テーマは、発電事業の競争促進、小売供給の自由化及び送配電網へのアクセスの制度化である。
また、既存制度による当面の競争促進策として、現在唯一の小売供給分野における直接競争の方途である特定電気事業について、その許可要件の拡大を求める。
(1) 発電事業の競争促進
卸発電事業の自由化によって、これまで代替できない責任ある供給事業者と見られていた一般電気事業者や卸発電事業者の他に、潜在的な発電事業者も含めて相当量の供給を担うポテンシャルを持つ発電事業者の存在が明らかになった。発電分野の競争強化は、製造コスト低減という形で、有意なエネルギー・コスト低減に寄与する分野である。長期的な供給力の確保や環境問題等への対応を図りつつ、早期に、可能な限りの発電量を競争の対象とする体制をとるべきである。
したがって、新規発電所建設について、一般電気事業者とその他の発電事業者の競争条件を同一とし、公平な中立機関の関与を経た入札によって事業者を決定すべきである。
上記の前提として、電力会社は、落札電源について会計を分離する等、競争条件の公平性を確保する必要がある。
(2) 小売供給の自由化
これまでの電力制度改革によって、卸発電や自家発電分野において競争の芽が出つつあるが、電力料金は、依然として諸外国と比較すると高く、産業の競争力に影響を与えている。また、基盤的な費用であるが故に、全ての財・サービスの価格を押し上げることによって、消費者に負担を強いている。このような内外価格差を前提とすると、電力供給コストを一層引き下げるため、電力供給システム全般の見直しを行う必要がある。
もとより、日本のエネルギー環境は、欧米各国とは異なり、海外依存度が高く、何らかのエネルギー・セキュリティ施策を講じていかなければならない。また、地球環境問題の高まりの中、先進国として責任ある取り組みが求められる。しかし、エネルギー・コストの観点から見れば、現在の、地域電力会社に供給責任を負わせて、長期の電源開発から日常的な供給管理までを全て負わせる体制が、効率的な、唯一の体制であるとは考えられない。世界の動向を見ても、電力産業を自然独占性が依然認められる送配電事業と、それ以外の発電及び供給事業とに分け、後者について最大限の競争を実現する体制が主流となりつつある。中でも、小売分野における競争の導入・促進は、需要家が供給者を選択する体制に他ならず、これによって産業全体の効率化や対需要家サービス向上に結びつくことが期待される。
したがって、電力供給システム全般の見直しについては、現在電気事業審議会で審議されているところであるが、平成10年春までに、以下の方向で検討すべきである。
なお、新たな体制下では、行政の関与は、緊急時及び長期の電力供給の確保のための方策と、地域独占を容認する送配電事業分野などに対する公正競争確保のための条件整備並びに監視に限定されるべきである。
(3) 特定電気事業の要件緩和
小売供給自由化のための一つの制度として、既に特定電気事業があるが、許可要件の厳しさ等の原因から、未だに期待された成果が得られていない。
したがって、上述のような構造改革を進める中で、特定電気事業制度は新規参入者にも供給義務が課せられているという性格に着目して、その活用を図るべきである。
まず、特定電気事業の許可手続きを一層簡易にするため、「地点」を単一の建物ではなく、一群の建物までを地点として一つの許可の対象とすることを検討すべきである。
また、供給能力要件を緩和し、一部の電力を買電して供給することと、他の送電網を利用して送配電(託送の制度化を含む)を可能にすることを検討すべきである。