金融・証券・保険

金融・証券・保険分野における規制の在り方に関する委員会の基本的な考え方は、利用者(預金者、投資家、契約者)の利便性の向上の観点から、日本の金融システムを効率化し活性化するために、競争制限的規制を撤廃し、競争を促進する必要があるというものである。また、金融システムの安定性を維持し、預金者・投資家・契約者を保護するためには、金融機関の経営行動に直接介入するのではなく、預金保険制度、寄託証券補償基金制度、支払保証制度など金融機関の経営破綻を円滑に処理する仕組みと自己資本比率規制などの健全経営規制とを適切に組み合わせるとともに、金融機関の経営内容に関する情報を開示するシステムを整備・確立し、市場監視機能を充実、強化すべきである。このような金融システムに移行することによって、利用者は自己責任原則に基づいて行動することができるようになるであろう。

昨年11月、橋本内閣総理大臣は、日本の金融システムを2001年までに、Free(市場原理が働く自由な市場に)、Fair(透明で信頼できる市場に)、Global(国際的で時代を先取りする市場に)の3原則に基づいて改革することについて検討するよう指示した。この指示を踏まえて、まず、外為法の改正法が本年5月に成立した。この新外為法は平成10年4月に施行される。さらに、本年6月には金融制度調査会、証券取引審議会及び保険審議会において金融システム改革に関する答申、報告書が取りまとめられた。新外為法及びこれらの答申等の中に、委員会の提言した証券・信託銀行子会社の業務分野規制の撤廃、株式売買委託手数料の完全自由化、損害保険料率の自由化などの事項を含む各般の措置事項が盛り込まれている。

金融の自由化・国際化の進展(特に、平成10年4月には自由な内外資本取引が可能となる)や情報処理・通信技術の進歩によって、日本の金融市場を取り巻く環境は大きく変化しており、市場原理と自己責任原則に基づいた金融行政への転換がますます強く求められている。上記答申等に盛り込まれた措置が早急に実施されるべきである。しかし、答申、報告書に盛り込まれている項目の中には、委員会が未だ不十分と判断するものも含まれている。それらについては、さらに踏み込んだ規制緩和措置を検討する必要がある。また、金融・資本市場が市場メカニズムに即して機能する上では、個人など金融・資本市場の利用者の責任の範囲と保護されるべき範囲を明示する統一的なルールが必要である。このようなルールの策定に向けて、2001年までにビッグバンが完了することを踏まえ、検討を可及的速やかに進めていくことが必要である。さらに規制緩和と並んで、金融・資本市場の取引に歪みを与える金融税制の見直しも、日本の金融システムを効率化し、活性化するための重要な政策課題である。

【第1次意見及び第2次意見の実施状況】

(1) 店頭登録株式の登録基準の見直し

昨年4月、店頭特則市場の対象企業について、「研究開発型事業」が「新規事業」に改められるとともに、サービス業も含まれることが登録基準上、明確化されたことを評価する。

(2) 時価発行公募増資に係る規制の撤廃

昨年4月、時価発行公募増資に関するガイドラインが撤廃されたことを評価する。

(3) 株式売買委託手数料の自由化

株式売買委託手数料については、本年6月の証券取引審議会報告書に基づき、平成10年4月に売買代金5千万円超にかかる部分が自由化され、平成11年末までには完全自由化が実現される予定であることを評価する。

(4) 証券業の免許制から登録制への移行

本年6月の証券取引審議会報告書において、「現行の免許制を改め、登録制を原則とすべきである。その上で、例えば店頭デリバティブ業務や引受業務など、業務の専門性やより高度なリスク管理が求められる特定の業務については、認可制とすることを検討すべきである」、「いわゆる経済条項は削除することが適当である」とされ、次期通常国会に法案が提出される予定である。

登録制を原則とすることは評価する。認可制の対象とする「特定の業務」は必要最小限とすべきである。認可基準は客観的で、必要最小限のものにすべきである。

(5) 銀行・証券・信託の業態別子会社の業務分野規制の緩和

本年10月、証券子会社に現物株式に係る業務を除く全ての証券業務が解禁され、信託銀行子会社に年金信託・合同金銭信託を除く全ての金銭の信託業務が解禁された。本年6月の金融制度調査会答申及び証券取引審議会報告書に基づき、残余の業務制限も、平成11年度下期中に撤廃される予定であることを評価する。

(6) コマーシャル・ペーパー(CP)の発行適格基準、償還期間制限の緩和

発行適格基準について、昨年4月、上場又は3年以上の継続開示という要件が撤廃されるとともに、短期格付の要件が第2位以上から、投資適格としては最低の水準である第3位以上に緩和された。

償還期間制限については、昨年4月、9か月から、短期金融商品としては最長の1年未満にまで延長された。

これらの規制緩和を評価する。

(7) リース、クレジット会社の社債、CPによる調達資金に係る規制緩和

CPについては、昨年3月、ロールオーバー期間の制限が廃止された。また、同年7月、調達資金に係る、貸付金以外の使途についての制限が廃止され、発行残高の上限が資産残高合計額の2分の1から資産残高合計額まで引き上げられ、発行代わり金が実際に支出されるまでの運用について運用対象に係る規制が廃止された。

社債については、同年11月、調達資金を貸付金以外の使途に充てることは禁止されていない旨が明確にされた。

また、本年6月の金融制度調査会答申において、「出資法(注)第2条第3項に係る制約(貸付資金に充てることを目的とした、社債、CPの発行による資金調達の禁止)は基本的に廃止する」こととされ、次期通常国会に法案が提出される予定である。

これらの資金調達の自由化は評価する。

なお、上記答申においては、社債等の発行の自由化に当たっては、「投資者の自己責任を前提に横断的なルールを構築する方向」での検討をにらみつつ、「現状における対応として、不良債権の状況等のディスクロージャーの強化や最低限の人的構成、財産的基礎を求める必要があると考えられる」とされている。投資者保護は、ディスクロージャーによるのが基本であり、預金を受け入れる金融機関ではないリース、クレジット会社などノンバンクが、社債等の発行により貸付資金を受け入れることに対して、過剰なディスクロージャーを義務づけ、一般事業会社と比べ差別的に取り扱うべきではない。また、人的構成及び財産的基礎についても、本来投資家が判断することであり、規制によりノンバンクの資金調達を阻害するような要件を定めるべきではない。

(注)出資法:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和29年法律第195号)

(8) 居住者ユーロ円債の国内還流制限の撤廃

昨年4月、還流制限期間が90日間から40日間に短縮された。平成10年4月に還流制限が撤廃される予定であることを評価する。

(9) 厚生年金基金の資産運用に係る規制緩和

昨年4月、信託銀行ごとの資産運用規制(いわゆる「5:3:3:2規制」)が撤廃された。基金単位の資産運用規制についても当初平成10年度に廃止されることとされていたが、本年度のできるだけ早期に前倒しして廃止される予定である。なお、資産の運用管理体制等が整っていると認められる基金については、昨年4月、資産運用規制の適用除外が認められた。

従来運用と運用拡大の区分については、同月、運用拡大枠が総資産の3分の1から2分の1に拡大された。平成11年4月に区分が撤廃される予定(厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)改正済)である。

生命保険の一般勘定契約に関する保証利率については、昨年4月、規制が撤廃された。

これらの規制緩和は評価する。

(10) 投資顧問業者の投資一任業務に係る規制緩和

参入規制について、本年6月の証券取引審議会報告書において、認可制を維持することとされ、認可基準の見直しが行われているところである。認可基準は客観的で、必要最小限のものにすべきである。

投資対象制限については、上記報告書において、「引き続き有価証券に係る投資顧問業務を基本とすることが適当である。今後、投資対象拡大についての具体的なニーズが出てきた場合には、個々のケースに即して適切な対応が求められる」とされた。引き続き不動産等への拡大について検討を行うべきである。

最小契約資産額については、本年4月、撤廃されたことを評価する。

一括発注については、再改定計画において、本年度早期に実施することとされているが、未だに措置されていない。このことは、遺憾である。顧客のコスト低減メリット等を実現するために、投資一任会社が複数の顧客の注文を、同社の名義で取り次ぐ形態も含め、証券会社等に一括して発注することを可能とするよう、必要な措置を直ちに講ずべきである。

(11) 商品ファンドに係る規制緩和

最低販売単位について、昨年4月、1億円から5千万円(十分な販売実績を有する商品投資販売業者は2千万円)まで引き下げられ、本年4月には1千万円まで、さらに10月には500万円まで引き下げられた。平成10年度のできるだけ早期に規制が撤廃される予定である。

資産運用については、本年4月、商品や商品先物の証拠金等に運用財産の総額の2分の1超を運用する限りは、その残りの資産の運用に係る規制が撤廃された。ただし、証券・金融先物に係る証拠金等への運用は、運用財産の総額の3分の1以内とされた。

解約不可期間については、昨年3月、規制が撤廃された。

これらの規制緩和を評価する。

(12) ストック・オプション制度の創設

商法改正により、本年6月、対象企業が一般企業に拡大され、また、自己株式取得によるストック・オプション制度も可能となったことを評価する。ストック・オプションに類似の誘因機能を持つ制度(例えば、ファントム・ストックやSAR)についても、利用することができる。

(13) 適格退職年金の規制緩和

資産運用について、本年1月、受給権が確定している金額について生命保険会社の一般勘定に残さなければならないという規制が存在しないことが確認された。本年4月、年金信託契約における「5:3:3:2規制」及び生命保険契約における第1特約の「3:3:2規制」が撤廃された。また、本年4月、年金単独運用指定金銭信託契約の締結が排除されていないこと及び生命保険会社との第2特約での運用が排除されていないことが明らかにされた。さらに、10月には投資顧問会社との投資一任契約を伴う、従業員を受益者とする信託契約も認めることとされた。これらの規制緩和を評価する。

上記の投資一任契約を伴う信託契約の解禁により、今後、年金信託における単独運用の割合が拡大していくであろう。それに伴い、受託機関の変更等の際の証券現物での移管のニーズも高まっていくと予想される。したがって、単独運用について証券現物での移管が可能となることが望ましく、所要の検討を早急に行うべきである。

予定利率の弾力化、給付水準の弾力化及び過去勤務債務等の償却年数の短縮化について、本年4月、認められたことを評価する。

確定拠出型の導入については、年金制度全般の動向をみつつ、早急に検討が行われるべきである。

なお、適格退職年金は税制上の措置であり、見直しに当たっては、所得課税の時期の問題等適正公平な課税という観点からの検討を要するであろう。

(14) 外国為替管理制度の抜本的見直し

本年5月、外為法が改正され、平成10年4月に施行される。この改正により、外国為替公認銀行制度が廃止され、「新たな担い手」の外国為替業務への参入が可能となり、特段の規制が課せられることはない。また、外国為替公認銀行に対する持高規制は撤廃される。

資本取引等は、原則として事後届出制とされる。物の売買や貿易に付随して行う為替取引、デリバティブ取引、対外貸付及び居住者間外貨建て貸付も自由に行うことができる。外貨建て証券の売買における円転義務は廃止される。

これらの規制緩和を評価する。

報告制度については、報告を作成、提出する事業者の負担が過度なものとならないよう、その必要性の有無をゼロベースで見直し、法律の施行に必要な限度に留めるべきである。

(15) 株式に係る規制緩和

店頭登録株式について、本年7月、借株制度が導入された。また、本年9月、株式新規公開時のブックビルディング方式が導入された。

未登録・未上場株式については、証券会社による公募発行の取扱い及び投資勧誘が、本年7月、解禁された。年金投資基金信託による投資は本年4月、証券投資信託による投資は本年9月、それぞれ解禁された。

これらの規制緩和を評価する。

(16) 証券投資信託に係る規制緩和

本年6月の証券取引審議会報告書において、証券投資信託委託会社の参入規制について、「認可制とすることを検討すべきである」とされ、その具体的な認可基準については、いわゆる経済条項は廃止し、いわゆる設立母体概念に代わる明確な基準を設けることが適当とされた。証券投資信託約款については、個別承認制から届出制等に移行することが適当とされた。販売チャネルの多様化については、銀行等の金融機関による販売の導入が適当とされた。いわゆる私募投資信託については、導入すべきであるとされた。運用指図の外部委託については、解禁すべきであるとされた。以上の措置について、次期通常国会に法案が提出される予定である。

なお、本年8月、既に承認を受けている商品と回号等以外の部分が同一内容である商品の信託約款については、承認があったものとすること(包括承認)とされた。また、本年12月から、委託会社の金融機関からの店舗借りによる直接販売が実施された。

これらの規制緩和を評価する。

委託会社の認可基準は客観的で、必要最小限のものにすべきである。

追加型株式投資信託については、個別元本を基礎として所得を算定する方式により販売される商品の設定を実現することが適当である。

(17)保険業に係る規制緩和

ア 損害保険料率(算定会種目)の自由化

本年6月の保険審議会報告において、「任意自動車保険、火災保険、及び傷害保険については、(中略)算定会料率の遵守義務を廃止(中略)することが適当である」とされたことは評価する。

同報告においては、「算定会の活動に関し法的な安定性が確保されなければならない」とされ、「法的安定性を明らかにする具体的方法については、適用除外等何らかの法律上の手当てが可能であれば望ましい。仮に、法律上の手当てが困難な場合には、これに代わる何らかの安定的措置が講じられることが適当と考える」とされている。しかし、こうした「何らかの法律上の手当て」や「何らかの安定的措置」が具体的に何を指すかは今後の検討に委ねられている。料率算定会の活動については独禁法適用除外措置をはずすことが必要であり、今後は独禁法に適合する範囲内での活動に限定すべきである。たとえば、会員会社の情報提供義務については、大数の法則に鑑み、参考純率の作成に必要なデータに限定されるべきである。

また、「『リスク細分型自動車保険』の取扱いに関する留意事項等について」(平成9年6月30日付け大蔵省銀行局保険部事務連絡)は、「任意自動車保険非加入者状況、事故被害者の発生状況等を踏まえ、被害者救済に支障が生じないか否かを勘案しつつ、必要に応じ改定を行うものとする」とされているが、こうしたガイドラインはあくまで「当面」のものであり、廃止するに当たっての実質的基準を明確にすべきである。

イ 保険商品の届出の範囲の拡大

本年6月の保険審議会報告において、「一般消費者を顧客とする家計向け保険に関しては、行政当局が商品や料率の適正性について、事前認可制を含む必要最低限の監督を継続することが適当である」、「企業を顧客とする保険に関しては、認可制の廃止を含む規制緩和を迅速に進めることが望まし」いとされた。

企業向け保険に関しては、原則届出制に移行するべきであり、家計向け保険に関しても、原則届出制に移行することについて、2001年までの実現を目指して、検討すべきである。

ウ 販売の自由化

本年6月の保険審議会報告においては、「2001年を目処に、銀行等がその子会社又は兄弟会社である保険会社の商品を販売する場合に限定したうえで、利用者利便の向上等のメリットと弊害を比較考量しメリットが大きいと考えられる住宅ローン関連の長期火災保険及び信用生命保険を認めることが適当である」とされた。これについては、以下の点でなお一層の自由化の余地があると考える。第1点は、2001年までの間に金融・証券・保険の業務分野規制を可能な限り撤廃し、相互参入を図るべきとされた金融システム改革の目的に照らし、十分な内容とは言えないこと。第2点は、窓口販売の認められる範囲がきわめて限定的であることである。保険審議会においては、「銀行等による保険販売については、販売チャネルの多様化、効率化等が図られるとともに、ワンストップ・ショッピングのニーズにも対応し、利用者利便の向上につながると考えられる一方、銀行等がその優越的地位や影響力を行使することにより、顧客保護、競争条件の公平性確保等の観点から弊害が生じるおそれがある」とされたが、同報告において、二つの商品に限定して販売を認めるとされた根拠は十分説得的なものとは考えられない。

銀行等の窓口における個人に対する生命保険商品の販売を、原則としてすべての商品について認めるべきであると考える。したがって、解禁後の対象商品の拡大について引き続き検討を進めていくべきである。

エ 生・損保の相互参入の範囲の拡大

生・損保会社本体による相互参入の範囲の拡大を検討すべきである。

【本年度取り上げた事項】

(1) 銀行への信託業務の全面的解禁

平成5年から業態別子会社方式による相互参入を始めとする金融制度改革が実施されているが、その理念は利用者利便の向上と国際性の確保であり、従来のいわゆる縦割りの金融制度を見直し、有効かつ適正な競争を促進することにより、金融制度の効率化及び市場の健全な発展を図ることが目的とされている。

こうした考え方を踏まえ、銀行業務と信託業務との間の相互参入を積極的に推進し、金融機関相互の競争を促進することにより、多様化・高度化する利用者のニーズに応えることができるよう、普通銀行及び長期信用銀行本体での信託業務の全面的兼営について早急に検討を行い、結論を得るべきである。

普通銀行及び長期信用銀行本体での信託業務の全面的兼営が解禁されるまでの措置として、地域金融機関が本体で行うことができる信託業務について、引き続きその拡大を検討すべきである。また、信託銀行子会社に対して、平成11年度下期中とされている年金信託、合同金銭信託の解禁を確実かつ早期に実施すべきである。

(2) 銀行系クレジットカード会社の業務範囲の拡大

割賦購入あっせんは、商品の購入者に対して割賦購入あっせん(クレジット)業者が信用を供与することであり、我が国の国民生活に不可欠なものとなっている。

現在、中小クレジット業者を保護するために、銀行系クレジットカード会社にはリボルビング方式による割賦購入あっせんが認められ、他のクレジット業者には認められている総合割賦方式による割賦購入あっせんは認められていない。

このような取扱いは、消費者の支払い方法の選択の幅の拡大を抑制するのみならず、非効率なクレジット業者を温存させたり、潜在的能力を有するクレジット業者の革新努力の誘因を阻害させたりする可能性がある。

消費者の利便性の観点からは銀行系クレジットカード会社に対する総合割賦方式を容認すべきである。このため、資金調達に関する諸規制の緩和、ファイヤーウォールの設定等により公正な競争条件の確保を前提として早急に結論を得るべきである。

(3) 商品先物取引に係る規制緩和

商品先物市場は、生産者や加工業者などの「当業者」が商品の価格変動リスクをヘッジする場であると同時に、投資家が資産運用の一環として金融商品と同様に投資する場でもある。当業者の価格変動リスクをヘッジするニーズを充たすためには、そのリスクを引き受ける投資家の存在が必要である。

アジアを中心に海外での商品先物市場の整備が急速に進む中で、我が国でも国際水準の商品先物市場を整備するため、規制緩和を推進することが必要である。

ア 新規商品の上場の円滑化

新規商品を上場するには、主務大臣(農林水産大臣又は通商産業大臣)の認可を受けなければならないが、平成2年に新規商品の上場の円滑化のために導入された試験上場制度においても、上場に当たって、当業者の相当部分の合意が実質的に前提とされているため、上場の実現までに非常に長い時間がかかり、上場商品の多様化がほとんど進んでいない。

特定の商品先物が成功するか否かは予測しがたいが、その商品先物の是非は本来、市場が判断すべき問題である。

投機資金が先物市場に流入することによって、現物価格が不安定になるおそれがあると一部で言われているが、先物市場が十分機能することによって、むしろ適正な価格が形成されるものである。価格は、本来、市場に任せるのが市場経済の基本であり、グローバルな市場の中で形成されている。

新規商品の上場を円滑化し、商品先物市場の機能を拡大するために、主務大臣の設立許可を受けている商品取引所が行う試験上場については、上場手続きの簡素化に向けた見直しを行い、商品特性を踏まえつつ、裁量のより少ない認可制又は届出制とすべきである。

イ 委託手数料の自由化

商品先物取引に関する委託手数料は、現在、商品ファンド業者及び外国の商品取引業者からの注文や指数先物取引、オプション取引について上限設定制とされているのを除き、固定手数料制が採られている。固定手数料制の下で、手数料をめぐる商品取引員間の競争が存在せず、大量売買取引や反復継続的な売買取引を行う当業者や機関投資家にとって、取引コストが高くなっている。

このことが、個人投資家による取引が中心の相場となり、先物市場本来の機能(価格変動リスク・ヘッジ、公正な価格形成、価格発見など)が十分に活用されていない一つの要因となっていると考えられる。

平成10年4月に新外為法が施行されると、国外との資金のやり取りがより自由になり、国内の市場から取引コストの安い外国市場へ資金が流出することも考えられる。

委託手数料の自由化は、商品取引員間の競争の促進によって、売買仲介の費用削減の誘因を作り出し、商品先物市場の効率性の向上に寄与するであろう。小口取引にかかる手数料については、必ずしも低下につながる保証はないが、小口投資家も、仲介コストが適正に反映された手数料を前提として投資判断を行うことで、合理的な投資決定を行えるはずである。

2001年に金融ビッグバンが完了する予定であることをも踏まえ、委託手数料を可能な限り早期に完全自由化するため、具体的スケジュールを早急に明示すべきである。

ウ 商品取引員の業務規制の緩和

商品取引員が取引受託業務を行うには、各取引所ごとの商品市場ごとに主務大臣の許可を受けなければならない。しかし、一つの商品市場において許可を受けている商品取引員は、一定の要件を充たしており、他の取引所の同一商品市場等においても取引受託業務を行う体制を整えていると考えられる。各取引所ごとの商品市場ごとに許可を与えることに委託者保護上の意味はない。

商品取引員の許可については、必要最低限の区分とすべきである。

また、現在は、取引の委託の取次ぎが禁止されている。委託の取次ぎを解禁すると、委託者と取次ぎを行う商品取引員、それを受託する商品取引員との三者間において取引関係が複雑化し、責任関係が不明確となるおそれがあるなど、委託者保護上の問題が発生する。

しかし、委託者保護については、委託の取次ぎの禁止ではなく、明確な取引ルールの設定や十分なディスクロージャーなどの措置によって委託者との紛争を防止することで対応可能なものと考える。

証券市場や金融先物市場においては、取引所の会員以外の証券会社や金融先物取引業者が取引の委託の取次ぎを行うことができることから、商品先物取引についてのみ規制を掛ける必要はない。

商品取引員に対する業務規制の緩和によって、それぞれの財務基盤に応じた商品取引員経営が可能となり、その結果、創意工夫と効率化により、その提供するサービスが委託者のニーズに沿うよう、多様化と質的向上につながることが期待される。

したがって、取引の委託の取次ぎを認めるべきである。

(4) 損害保険商品の販売の自由化

本年6月の保険審議会報告においては、「2001年を目処に、銀行等がその子会社又は兄弟会社である保険会社の商品を販売する場合に限定したうえで、利用者利便の向上等のメリットと弊害を比較考量しメリットが大きいと考えられる住宅ローン関連の長期火災保険及び信用生命保険を認めることが適当である」とされた。これについては、以下の点でなお一層の自由化の余地があると考える。第1点は、2001年までの間に金融・証券・保険の業務分野規制を可能な限り撤廃し、相互参入を図るべきとされた金融システム改革の目的に照らし、十分な内容とは言えないこと。第2点は、窓口販売の認められる範囲がきわめて限定的であることである。保険審議会においては、「銀行等による保険販売については、販売チャネルの多様化、効率化等が図られるとともに、ワンストップ・ショッピングのニーズにも対応し、利用者利便の向上につながると考えられる一方、銀行等がその優越的地位や影響力を行使することにより、顧客保護、競争条件の公平性確保等の観点から弊害が生じるおそれがある」とされたが、同報告において、二つの商品に限定して販売を認めるとされた根拠は十分説得的なものとは考えられない。

銀行等が保険を販売することに対しては、銀行等による「圧力募集」の可能性や事故後の対応に問題が生じるのではないかといった懸念が示されている。

「圧力募集」を根拠として損害保険の販売を規制することは、銀行等の窓口での販売には「圧力」が行使され、それに対して顧客は屈するしかなく、不利益を被る可能性があることを前提としている。銀行等が窓口で保険を販売する場合に、「圧力募集」の可能性がまったくないとは言えないが、大半の商品について、可能性のみを根拠として販売そのものを事前にかつ一律に規制することは過剰規制である。もとより「圧力募集」は、現行の保険業法(平成7年法律第105号)において違法な行為であり、保険業法等において適切な措置を講ずるべきものである。

事故後の対応については、現在の代理店もすべて対応体勢を整えているわけではない。事故後の対応体勢は、消費者が代理店を選択する場合、及び保険会社が契約代理店を選定する場合の基準の一つであって、銀行が営む代理店を利用するかどうかは、保険会社や消費者の選択に委ねられるべき問題である。したがって、銀行を代理店とすることを禁止する十分な根拠とはなり得ない。

銀行等の窓口における個人に対する損害保険商品の販売を、原則としてすべての商品について認めるべきであると考える。したがって、解禁後の対象商品の拡大について引き続き検討を進めていくべきである。

(5) 生命保険の構成員契約規制について

構成員契約規制とは、法人である生命保険の募集代理店や保険仲立人(ブローカー)は、自社又は関連会社の役員や従業員(以下「構成員」という)に対して、構成員を契約者とする生命保険商品を販売することができないという規制である。

したがって、構成員は、自社や自社の関係企業などが保険代理業を営んでいても、こうした保険代理店(以下「企業内代理店」という)を通して生命保険商品を購入することはできない(注1)。現在は、職場において生命保険を購入する場合には、通常、企業から立ち入りを認められている生命保険会社の営業職員から購入している。他方、損害保険商品やいわゆる第三分野商品(傷害・疾病・介護保険)については、構成員契約規制の対象となっておらず、構成員は、企業内代理店においてこれらの商品を購入することが可能である。

当局の見解によると、構成員契約規制は、いわゆる「圧力募集」を防止することを目的とするルールであり、構成員に対する生命保険商品の販売には「圧力」が行使され、従業員が不利益を被る可能性が高いことを前提としたものである。

また、現行の企業内代理店制度そのものが問題であるとする指摘がある。すなわち、企業内代理店は、手数料収入の最大化を図るために、代理店にとって有利な商品だけを従業員に販売するという見解である。この企業内代理店制度の問題も、消費者への保険の販売という局面についてみれば、「圧力募集」をいかに防止するかという問題に帰着する。

「圧力募集」は、現行の保険業法においても違法な行為であり(注2)、「圧力募集」が行われれば行政処分の対象となりうる(ただし、職場の上司等による「圧力」は、保険業法の対象外である)。本来の規制の在り方としては、事前にかつ一律に構成員契約を規制するのではなく、保険業法等における行為規制(または事後規制)等により対処すべきであると考える。これに対し、当局は下記の点により、事後的規制が困難であるとしている。

  1. 現在の日本の企業風土では「圧力」を受けた従業員からの告発を実際には期待できない。
  1. 1件ごとに事実認定を行うマンパワーが確保できない。
  2. 仮に処分ができたとしても、実際に被った契約者の不利益を現状回復することが保険商品の性格上困難である。

上記3点の状況は考慮すべきであるし、実際に「圧力募集」の可能性がないとは言えない。

なお、この点に関し、日常のお付き合いの中においても「圧力」は生じうること等から、消費者保護法を整備すべきであって、構成員契約規制を急いで撤廃する必要があるのかという指摘がある一方、「圧力募集」を防止する措置は必要であるが、消費者の選択肢を拡大するためにも構成員契約規制は撤廃すべきである、といった指摘もある。また、当局は、他に「圧力募集」防止のための実効ある措置が見つからない現状では、事前一律の規制はやむをえないとしている。

しかしながら、可能性のみを根拠として、構成員に対する生命保険販売を一律に禁止することは、過剰規制である。「圧力募集」に対しては、保険業法等において、罰則を課すなどの事後的規制等の適切な措置を講ずべきであると考える。また、生命保険商品にとどまらず、金融機関等の利用者の保護のための公正な取引ルールの在り方を検討する必要がある。

構成員契約規制は、「生命保険会社の業務運営について」(平成8年4月1日付け大蔵省銀行局長通達第500号)で定められているが、通達には根拠となる法令が明示されていない。同規制は、保険業法第300条第1項第8号を受けた保険業法施行規則第234条を根拠とするという考え方もあるが、通達は、生命保険会社が販売できる商品の範囲を定め、構成員契約を規制することによって「圧力募集」を未然に防止することをねらいとするものである。しかし、保険業法第300条第1項第8号及び保険業法施行規則第234条では、保険契約の締結又は保険募集に関する禁止行為を定めているのみであり、特定の保険契約を禁止するものではない。

また、通達には、損害保険や第三分野については構成員契約を規制せず、生命保険だけを規制する理由については一切言及がない。したがって、構成員契約を規制した大蔵省銀行局長通達がこれらの法令を根拠とするという考えには無理がある。以上の点から、当該通達は、法令上の根拠を持たない行政指導である可能性が高いものと考える。

構成員契約規制が撤廃された場合、企業が従来認めていた生命保険会社の営業職員等が立ち入りを制限されることにより、従業員が営業職員等から保険商品を購入する道が閉ざされ、結果的に購入機会の多様性が減少する可能性があるということが規制維持の理由の一つとされている。しかし、一社専属制が緩和された現在、企業内代理店やブローカーが複数の生命保険会社の商品を取り扱うことができるようになっている。また、現在においても、一つの職域へ全ての生命保険会社の立ち入りが認められているわけではなく、取引関係や株式保有などの企業間関係によって、企業への立ち入りが特定の生命保険会社に限定されているという指摘がある。また、職場でなくとも家庭で生命保険に加入することも可能である。他の商品と比較してみれば、個人の保険を職場内において販売すること自体が、一般的ではない。構成員契約規制は、結果的に生命保険会社の販売エリアと営業職員等を保護するものとなっている。なお、この点に関し、現状では営業職員の雇用への影響を無視できないとの指摘がある。

かつてのように、護送船団行政のもとで生命保険各社が横並びの商品を提供し、しかも経営破綻のリスクが小さかった状況では、企業内代理店が安易に特定の保険会社の商品だけを従業員に販売するという可能性があったかもしれない。しかし、今後は、自由化の中で保険会社間の競争が激化し、その結果、経営格差が拡大し、非効率な経営を行っている保険会社は、日産生命の例に見られるように淘汰されていくと考えられる。したがって、企業内代理店としても、手数料収入の最大化だけを企図して特定の保険会社と契約を結ぶことのリスクを、当然に認識するであろうし、従業員としても、加入している保険会社に経営破綻が生じた場合、それがたとえ自社の代理店の推奨する商品であっても、自社によって保護されるものではないことを考慮するであろう。

企業の従業員が、企業内代理店や企業内ブローカーを通して生命保険商品を購入するようになれば、生命保険商品の販売チャネル間の競争が促進されることになると考える。現在、生命保険は、高コストの販売体制であることが指摘されている。その背景には、例えば、生命保険会社の営業職員は、毎年その4割弱(平成6年度は162,915人、7年度は152,367人、昨年度は161,752人)が業務から撤退しているなどの状況がある。今後は、販売における消費者の多様な選択を確保するために、販売チャネルが拡大されていくことが必要である。種々の販売チャネル間で消費者の選択が行われ、販売面での競争が行われることは、販売コストの低減につながり、消費者利益を拡大させることになる。なお、公正取引委員会事務当局は、構成員契約規制が、実質的には企業代理店という販売チャネルにおける取り扱い商品を制限するものであり、相互参入等の販売チャネルの多様化のための規制緩和措置の効果を滅殺しているおそれがあるとしている。

以上のように、委員会は、構成員契約規制について次のように考える。@「圧力募集」の防止措置として過剰規制である。A販売チャネルについて消費者の選択を狭めるものである。B法的根拠が明確でない。したがって、構成員契約規制は妥当ではなく、廃止すべきであると考える。

今後、保険業法等において、消費者の意見を踏まえつつ、「圧力募集」に対処する他の実効性のある透明なルールを検討するとともに、構成員契約規制の撤廃の可否を含めた検討を行っていくべきである。

(注1) 構成員は、企業内代理店を除いては、あらゆるチャネルから保険商品を購入することが可能である。家庭でも生命保険商品を購入することが可能であり、企業内代理店以外の代理店からの購入も可能である。

(注2) 保険業法施行規則第234条によれば、「保険契約者又は被保険者に対して、威迫し、又は業務上の地位等を不当に利用して保険契約の申込みをさせ、又は既に成立している保険契約を消滅させる行為」は違法な行為である。

なお、当局の見解によれば、「圧力募集」がない公正な競争が確保されている状況とは、例えば以下の3点が満たされなければならないとしている。

  1. そもそも保険に加入するしない、あるいは、どの程度の金額に加入するかも含めて、契約者に商品選択の自由がある。
  2. 商品を納得するまで検討する機会がある。
  3. 加入後も解約したいときには解約できる。


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